ヨカナーンとサロメ



ならぬ! バビロンの娘! ソドムの娘! ならぬ!

わたしはお前の口に接吻するよ、ヨカナーン。わたしはお前の口に接吻するよ。

ワイルド『サロメ』より

預言者ヨカナーンに興味を抱いたサロメは、彼を地下牢から引き出させます。
サロメはヨカナーンに魅了され様々な美辞麗句でもって彼に語りかけますが、
ヨカナーンは激しい呪いの言葉を吐いてサロメを罵倒します。
彼はサロメを「バビロンの娘」「ソドムの娘」と呼びますが、
バビロンとソドムはともに悪徳と頽廃の都として聖書に登場しています。

サロメはヨカナーンの容姿を様々な形容で讃美してはヨカナーンに否定され、
否定されればその部分をけなし、また新たな部分を褒めて求めていきます。
最初「草原の百合」や「山々に降り積もる雪」のように白い体を讃え、
次いで「黒い葡萄の房」や「レバノンの山の杉」のように黒い髪を褒め、
彼に触れることを望みますが拒絶され、
最後には「柘榴の実」や「珊瑚の枝」のように赤い口を求め、
その口に接吻することだけに欲望を集中させていきます。

「雪のように」白い肌、「黒檀のように」黒い髪、「血のように」赤い唇といえば
童話の「白雪姫」を連想します。
『サロメ』の作中ヨカナーンの容姿は
一般的に女性に対して使われるような形容詞でたとえられています。
ビアズリーの描く中性的というよりも
むしろ少女のような雰囲気を醸し出すヨカナーンと
欲望を隠すことなく恋焦がれる相手に迫るサロメの姿からは
性別逆転した倒錯的な"boy meets girl"の物語が読み取れそうです。



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