クライマックス



ああ!わたしはお前の口に接吻したよ、ヨカナーン、わたしはお前の口に接吻したよ。

ワイルド『サロメ』より

ヨカナーンの首を手に入れたサロメはその口に接吻します。
もはやサロメを見ることもなく、彼女に語りかけることもないヨカナーンに対し、
彼女は自分がいかにヨカナーンを愛しているか語りかけます。
首を手に入れて自分の思いのままに出るようになったにもかかわらず、
サロメの心の渇きは癒されることなくヨカナーンを求めてやまないのです。

「ヨカナーンの首」を求めたサロメの姿は一見猟奇的なものですが、
彼女は欲しいと思う気持ちを純粋に実行したに過ぎず、
それだけヨカナーンに対する思いが一途であったことを表します。
ワイルドは彼女の年齢を14歳くらいに想定していたようですが、
未熟な少女であるからこそ、その思いは純粋で一途であり、
結果を考えず愛を成就させるため突き進んだといえます。

ビアズリー描くサロメの髪は蛇のようにうねり、
ヨカナーンの血からは百合の花が咲き出でています。
百合は純潔を象徴する聖なる花ですが、
この花は聖人の血を滋養にして咲く「悪の花」といえるでしょう。

サロメは清浄無垢な処女でしたが、
ヨカナーンに恋して愛より他のものは考えられなくなってしまいました。
その結果がヨカナーンの斬首となったのです。

ヘロデ王はサロメに対し妻の連れ子以上の感情を抱いていましたが、
ヨカナーンの首を求め、首を斬らせたサロメに対し恐怖を抱き、
彼女を殺すよう命じ、サロメは兵士たちの楯に押し殺されます。

ビアズリーのサロメの蛇のような髪は、ヘロデが彼女に見出した魔性の象徴です。
少女が「少女」でなくなったことへの嫌悪、恐れがヘロデを支配し、
サロメを殺させることとなったのだと思います。



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