26    我が心は過去に涙す
更新日時
2006/03/16
病と死とは 一切の われらの為に
燃えし火を 空しき灰と化し去りて、
情熱深くこまやかの つぶらかの眼(まみ)
わが心の溺れ惑ひし かの朱膚(くちびる)
 
芳香草(デイクタム)の如くに馨る かの接吻(くちづけ)
光線(ひかり)よりさらに烈しき かの恍惚
残るは何ぞ。恐しや、わが魂よ
三色の、色も褪せたる素描のみ
 
そも、われの如、うらぶれて 孤独に死なむ、
極道の時の老爺は そのあらき
翼もて 日々 擦り消して行く……
 
生命と芸術の黒き暗殺者よ、
汝といへども 記憶より わが栄光と
快楽(けらく)との彼女(かのひと) 永久(とわ)に 消すことあらじ。
ボードレール 「肖像」
 
 
クノップフ グレゴワール・ル・ロワと共に―我が心は過去に涙す
1889 23.5×14.6cm New York, The Hearn Family Trust



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