ヘロデの眼



そなたはそなたの娘があんなに蒼い顔をしているのに気がつかぬのか?

あれが蒼い顔をしていようがいまいが、それがあなたにどうしたと仰せられるのです?

ワイルド『サロメ』より

サロメはヘロディアスが前夫(ヘロデの異母兄)との間にもうけた娘で、
ヘロディアスはサロメを連れてヘロディアスと再婚しました。
ヘロデは妻の連れ子のサロメに好色な視線を向けており、
ヘロディアスはそのことに苛立ちを隠せません。

ワイルドを戯画化した顔立ちのヘロデ王は、
静かに佇むサロメを見つめています。
ビアズリー描くサロメはずいぶんと大人びた雰囲気ですが、
ワイルドは彼女の年齢を14歳くらいに想定していたようです。

『サロメ』連作を通じてしばしば登場するモチーフに
「孔雀」「薔薇」「蝶」があります。
今回の『ヘロデの眼』においても孔雀の羽根飾りを頭につけたサロメの他
薔薇の生垣と孔雀、木にとまった蝶が描かれています。
この三つのモチーフはいずれもビアズリーにとって美の象徴であり、
連作全体を通じてしばしば登場します。

「薔薇」はヴィーナスの花とされ、美と愛を象徴するものです。
「蝶」は古来魂の化身とされ、キリスト教では復活の象徴ともされました。
「孔雀」の象徴するものについては以前記事にしております。
ビアズリーの作品ではその象徴性と装飾的な美しさが結びついて
きわめて高い視覚的効果をあげています。



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