月の中の女



あの月を御覧なさい。あの月はいかにも変な様子をしています。墓穴の中から出てきた女のようだ。あれは死んだ女に似ている。あれは死人を探し求めてでもいるようだ。

ワイルド『サロメ』より

ワイルドの戯曲『サロメ』の冒頭の台詞の一節です。
若いシリア人の親衛隊長と王妃ヘロディアスの小姓が
宮廷のバルコニーから宵の月を眺めています。
彼らは月の中に不吉な女の姿を見出します。
月に映る女は踊る王女のような姿をしています。
彼らにはその女はまるで死んだ女のよう見えており、
この後起こる悲劇を予見させます。

ワイルドは最初ビアズリーの才能に共感していましたが、
二人の関係は次第に悪化していきました。
劇中では「踊る王女」の姿であるはずの「月の中の女」は
ビアズリーの絵ではワイルドを戯画化したものとなっています。



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