プラハ国立美術館展 ルーベンスとブリューゲルの時代
 
 
 

2008年2月9日〜3月30日 愛媛県美術館

この展覧会は17世紀フランドル美術の黄金期、約70点の作品で構成されていました。

第1章 ブリューゲルの遺産

ピーテル・ブリューゲル(父)に始まるブリューゲル一族は4世代にわたり、
姻族も含めると10名以上の画家を輩出しました。
長男ピーテル(子)は父の作品を基に宗教画や風俗画を描き、
次男ヤン(父)は花や自然描写に才能を発揮しました。

ここではピーテル(子)の作品を中心にブリューゲル一族及び
ブリューゲルの追随者の作品が紹介されています。

ブリューゲルといえば2点の『バベルの塔』が知られていますが、
今回は17世紀初頭のフランドルの逸名画家による『バベルの塔』が展示されていました。
塔の前でX字状に交差する道によって奥行きが強調されて、
小さな画面(51.0×72.0cm)であるにもかかわらず、広大な空間を感じることができます。

第2章 ルーベンスの世界―神々と英雄

ルーベンスとその影響を受けた画家たちによる
神話や歴史上の逸話の描かれた作品が紹介されていました。

エラスムス・クエリヌス(子)とルーベンス 『カエサルの凱旋』
イタリア・ルネサンスの画家マンテーニャの影響を強く受けた作品です。
画面いっぱいに描き出された英雄群像は比較的小品(86.5×91.0cm)とは思えない迫力で見るものをひきつけます。

シャルル・ウォティエ 『若いバッコス』
酒と陶酔の神バッコスはバロック時代に好まれた画題です。
この作品は画家自身の姿をバッコスとして描いたものといわれています。
威厳ある神というよりも、親しみやすさのほうが前面にでたバッコスです。

ヤン・ブリューゲル(子)とヘンドリック・ヴァン・バーレン(父)(複製)
『バッコス、ウェヌス、ケレスのいる風景』


鬱蒼とした緑の森の中、画面右に神々が描かれています。
横長の画面はまるで舞台のようで、神々にスポットライトが当てられているように感じます。
この作品はバッコス(酒)とケレス(美食)がなければウェヌス(愛)は冷めてしまうということを表したものとされています。

第3章 ルーベンスの世界―キリスト教

聖書の物語、聖母子や聖人の姿を描いた作品が紹介されていました。

ルーベンス『聖アウグスティヌス』
今回の展覧会の白眉といえる大作です。
砂浜で貝殻で海水をすくい、全ての水を掘った穴に移し変えようとする童子の姿を見て、この行為が意味ないことであるのと同様、
三位一体の奥義を人間が理解しようとすることは無意味であることを悟るアウグスティヌスという
まるで禅問答のような逸話が描かれています。

ヤン・ブックホルスト 『聖母と眠る幼な子キリスト』
聖母の柔らかで優しい表情と幼子の愛らしさが強く印象に残る作品です。

第4章 肖像画

ルーベンス工房では数多くの肖像画も制作されましたが、
ルーベンスの影響を受けた画家で肖像画家として名高いのが
アントーン・ヴァン・デイク(アンソニー・ヴァン・ダイク)です。
彼の作品を中心に当時の王侯の肖像画が紹介されていました。

第5章 花と静物

静物画はこの時代のフランドルで大いに発展したものです。
単に物を描いただけではなく、それぞれの事物に象徴的な意味がこめられています。

ヤン・ブリューゲル(子)(帰属) 『磁器の花瓶に生けた花』
この展覧会のパンフレットになっていた作品です。
チューリップを中心にカーネーション、ラッパズイセンなどが青絵染付の花瓶に生けられています。
これらの花はそれぞれ異なる季節の花であり、
実景を写生したものではなく、画面上で構成された情景であることが分かります。

ダニエル・セーヘルス 『ガラスの花瓶に生けた花』
ヤン・ブリューゲル(父)の弟子でイエズス会士の画家による作品です。
アイリスやバラなど象徴的意味を持つ花が描かれています。
この時代の花の絵というと豪華な雰囲気のものが多いのですが、
こちらはシンプルな雰囲気がかえって印象に残る作品です。

このほか人物画家と静物画家による合作(人物像の周囲を花や果実の額で飾った作品)などがありました。

第6章 日々の営み

この時代静物画とならんで大きく発展したジャンルが風俗画でした。

ヤーコプ・ヨルダーンス(工房) 『道化師と猫』
今回1点だけ好きな作品を挙げよと言われれば迷わずこの作品を挙げます。
ちょっと太めで毛の深い猫の表情がなんともいえないくらい味わい深いのです。
この作品の場合猫は不実な悪女を象徴するとされていますが、
私には愛嬌のほうが前面に出て見えました。

ほとんど全ての作品が初めて見たものばかりでしたが、
展観内容を絞っていたこともあり、なかなか見ごたえのある展覧会でした。
最後の最後に楽しい作品(猫)を見ることが出来たのも良かったです。

 
 


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