ギュスターヴ・モロー展
 
 
 

2005年7月21日に兵庫県立美術館の「ギュスターヴ・モロー展」を見ました。
 
 
Tプロローグ
まず「24歳の自画像」が出迎えてくれました。
生粋のパリジャンらしく、洗練された紳士といった感じの自画像です。
ローマ留学時代の風景スケッチなども展示されていました。
 
 
U神々の世界
ギリシア神話に由来する作品を展示していました。
まず目に入るのが大作「エウロペの誘拐」です。
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王女エウロペに恋したユピテルが、牡牛に変身しエウロペに近づき彼女を攫うという物語を描いたものです。
この作品では牡牛の頭はすでにユピテルのものになっており、
エウロペも攫われているにもかかわらず蠱惑的な表情を浮かべています。
習作も多く展示されており、作品制作の過程がよくわかるようになっていました。
「レダと白鳥」もモローが何度も取り組んだテーマのひとつで、何点もの作品が展示されていました。
モローも「ガニュメデス」を描いています。しかし、このガニュメデスは穏やかに飛翔しているといった感じで、
「略奪」のイメージからはかけ離れています。
 
 
V英雄たちの世界
ギリシア神話の中でもヘラクレス、オデュッセウス、イアソンといった、
神ではなく人間の英雄を主題とした作品を展示していました。
「オイディプスとスフィンクス」や「イアソン」といった作品の様々なヴァージョンや習作を見ることができました。
「ヘラクレスとレルネのヒュドラ」のヒュドラの頭は、ひとつひとつ違う種類の蛇の頭として表されているのを興味深く思いました。
基本はコブラで、様々な種類の毒蛇の頭をひとつずつ取り付けているといった感じでした。
ヘラクレスはモローには珍しく筋骨隆々といった男性像です。
ヘラクレスのためのデッサンを見ていると、モデルを丹念に観察していた様子がわかります。
 
 
W詩人たちの世界
光と詩の神であるアポロと詩や芸術を司る9人姉妹のムーサたちが詩人に霊感を与えます。
ギリシアだけではなく、東方世界をイメージした詩人の作品も描かれています。
まず目に入ってきた「ヘシオドスとムーサたち」は薄紅色の背景に朦朧と人物が浮かび上がるような作品でした。
水彩の「アポロとムーサたち」は18.5×12.5cmの小品ですが、細密な描写が印象的でした。
この作品と同じ額に入っている「アラビアの歌手」は対照的にラフなタッチの作品でした。
「インドの詩人」は95年のモロー展にも出品されていた作品です。
ムガル帝国時代のミニアチュールを意識した装飾と繊細な人物像が魅力的な作品です。
「サッフォーの死」もモローが何度も取り上げているテーマですが、
今回展示されていた作品では、まるで東洋の飛天を思わせる衣装や装飾品を身につけた姿で崖に身を投げる
(というよりも天へ舞い上がるといった感じです)様子が描かれていました。
今回の展覧会の出展作品で一番私が好きだと思ったのは「夕べの声」です。
図版ではよくわからなかったのですが、実際の作品を見ると水彩の利点を生かした繊細かつ大胆なタッチを感じることができます。
微妙な色使いもあわせて本当に魅力的な作品です。
やはり私はモロー作品の中では「詩人」をテーマにしたものが一番好きなようです。
 
 
X魅惑の女たち、キマイラたち
キマイラとはギリシア神話に登場する怪物ですが、フランス語では「空想」「夢想」といった意味も持っています。
ここでは神々や英雄を魅惑する女たちを描いた作品が展示されていました。
このセクションの最大の見所は「一角獣」です。
一角獣をテーマにした中世のタピスリーから多くの表現が引用されていますが、
描き出されているのは完全にモロー独自の世界です。
一角獣は狩人には捕まえられず、清らかな乙女にのみ捕らえることができるという伝説から「純潔」の象徴とされています。
モローの作品中にも「百合」や「ガラスの器」など「純潔」を象徴するものが描きこまれています。
裸体と着衣の女性が対峙するという構図は、ティツィアーノ「聖愛と俗愛」などにも通ずるものです。
作品と対面して装飾文様の細密さと色の置き方の大胆さを実感しました。
このほか彼が恋人に贈った妖精「ペリ」を描いた扇も大変美しい作品でした。
 
 
Yサロメ
モローのライフワークといえば「サロメ」です。
ここで目に入るのは「出現」です。
線描の装飾文様が幻想的な効果を醸し出す作品です。
この作品に見られる「踊るサロメの前に現れる洗礼者ヨハネの首」という表現はモローの独創として知られるものです。
このほかにもサロメのための習作などが数多く展示されていました。」
 
 
Z聖書の世界
旧約聖書・新約聖書、そして聖人伝の世界を描いた作品が展示されていました。
特に聖セバスティアヌスはモローが何度も取り上げたテーマのひとつです。
「聖セバスティアヌスの処刑」は裸体の若く美しい青年を苦悶の表情のうちに描くという
エロスとタナトスの究極の表現として多くの画家が描いています。
モロー描くセバスティアヌスは中性的な美青年であり、苦痛よりも神の栄光を見に浴びているといった感じを受けます。
 
 
[エピローグ
モロー晩年の作品「人類の生」などが展示されていました。
「人類の生」は黄金時代、銀の時代、鉄の時代の人間の姿を描いたものです。 このほか殉教者の血によって咲きほこる花「神秘の花」の水彩ヴァージョンもありました。 「神秘の花」や詩人をテーマにした「死せる竪琴」などはモローの遺言ともいえる作品群です。
 
 
やはり実際の作品に接してわかることがたくさんあります。
繊細な細密描写と大胆な色のタッチが絶妙なバランスで調和しているのが、
モローの作品であるということがよくわかりました。
そして作品を通してモローが投げかけるメッセージにも耳を傾けることが少しはできたのではないかと思います。


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