12    希望
独り炉辺に坐して、忌わしい想念が
暗くわが心を覆うとき、
わが《心の目》に 美しい夢が浮かび来たらず、
人生の枯れた雑草が 花をつけぬとき、
甘美な希望よ、天上の香しい薫りを わが身に撒き散らし、
わが頭上に 白銀(しろがね)の翼を羽搏(はばた)かせよ。
 
夜になると 絡み茂った木枝が 明るい月の光を
さえぎるところを さまよい歩くときは いつも、
悲しい失意が わが思いを襲い、
威圧する。美(うる)わしい快活を去らせ、
木(こ)の葉かげを通して 月光とともに覗き見し、
魔王の失意を 遠ざけるために。
 
そのとき 絶望の父親 失意は、
息子のために わが軽率な心を捉えようとする。
そのとき 雲のように、大気のうえに失意は坐し、
呪術にしばられた獲物に 飛びかかろうとする。
甘美な希望よ、明るい顔で 失意を追いたてよ、
朝が夜を驚かせるように 驚かせよ!
 
わたしがこれらの運命を いとも親しくたもつときは いつも
悲しみの物語が わが胸に 恐ろしく語りかける。
ああ 明るい希望よ、わが病める想いを元気づけよ。
しばし おまえのいと甘き慰めを われに給え。
おまえの 天より生じた光を わが周辺に撒き散らし、
わが頭上に 白銀の翼を羽摶かせよ!
 
不幸な恋が 残酷な両親と 無慈悲なる
美しさもて わが胸を苦しめん。
ああ この真夜中に ソネットを口ずさむことが
無駄なことだとは 考えさせないでおくれ。
甘美な希望よ、天上の香しい薫りを わが身に撒き散らし、
わが頭上に 白銀の翼を羽搏せよ!
 
過ぎゆく長い歳月(としつき)の 追憶のなかで
われらの国の栄誉が衰えゆくのを 見させないでおくれ。
ああ われらの国が その魂と 矜持と、
自由の影ではなく 自由を保つのを 見させておくれ。
おまえの明るい瞳から 稀なる明るさをそそぎ込め―
おまえの翼の下に わが頭(こうべ)を覆え!
 
愛国者の高価な遺産は 見させないでおくれ、
偉大なる「自由」よ! 質素な衣裳をつけるとき なんと偉大であることか!
重苦しい法廷の 賤しい紫の法服をまとうとき、
頭を垂れさげ いまにも息絶えんする。
だが 白銀の輝きで大空いっぱいになる翼で
おまえが天から飛び下りるのを 見させておくれ!
 
そして 眩しい威厳にみち、星が
暗い雲の輝く頂上を 黄金に彩るとき、
上天の なかば覆われた顔を 明るくするとき、
そこで 暗い思いが わが不吉な心をつつむとき、
甘美な希望よ、わが頭上に おまえの白銀の翼を羽摶かせ、
天の威光を わが周辺にふりそそげ。
 
キーツ「希望に寄せて」
 
 



バーン・ジョーンズ 「希望」
1896頃
ボストン美術館


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