ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 1999年1月30日〜4月4日 京都市美術館 ![]() ワシントン・ナショナル・ギャラリー(以下NGA)は、実業家アンドリュー・W.メロンのコレクションの寄贈により 1941年に開館しました。 NGAは建物、コレクション、運営資金のすべてを一般市民からの寄付でまかなっていることが最大の特徴です。 このときの展覧会は19世紀から20世紀初頭のフランス絵画を中心とした内容でしたが、 特別出品としてオールドマスターの絵画8点もあわせて展示されました。 ![]() 展示構成と主な作品 1.印象派以前 19世紀前半から印象派登場までの作品によって構成されていました。 コロー ヴィル・ダヴレー 1867-70頃 ヴィル・ダヴレーはパリ近郊の町で、コローの父親が屋敷を所有していました。 彼は1855年頃から晩年にかけて、この地で叙情性にあふれた風景画を数多く描くこととなります。 「銀灰色」と呼ばれるコロー独特の煙るような大気の質感と水面に反映する光の表現が見事です。 コロー スタンプ夫人とその娘 1872 コローと交流のあった絵画コレクター、スタンプの妻と娘を描いた作品です。 森の中を散策しているという設定で描かれていますが、アトリエで制作された作品のようです。 夫人のドレスの青、娘のワンピースの白が、森の緑に映えて画面を引き締める効果をあげています。 ブーダン ドーヴィルの海水浴 1865 浜辺の人々 1867-70頃 ドーヴィル、トルーヴィルは1860年代以降リゾート地として発展した町です。 ブーダンのこれらの作品には海辺で過ごすブルジョワジーの男女が描かれています。 彼は戸外制作を通して自然を前にしてしか得られない効果が画面に生じることを確信していました。 ブーダンの戸外制作はモネに影響を与え、やがて印象主義を生み出すこととなります。 マネ ガラスの花瓶の花 1882頃 マネは晩年小さな花束の作品をいくつか描いていますが、そうした一連の作品の一つがこの作品です。 薄いピンク色の薔薇を中心に数種類の花が花瓶に活けられています。 メインの淡い色の花を引き立てる濃い色の花といった配色や、ガラスの質感の表現の見事です。 マネ キング・チャールズ・スパニエル犬 1866頃 マネは生涯に10点ほどの犬の肖像画を描いていますが、この作品は最初に描かれたものといわれています。 丹念に描きこまれた顔の部分に対し、体の毛並みはラフなタッチで描かれています。 彼はベラスケスの作品を熱心に研究していますが、この作品にもその影響が見られます。 2.印象派 モネ、ルノワール、ピサロ、シスレー、モリゾなど印象派の中心で活動した画家の作品で構成されていました。 ドガ バレエの前 1890-92 ドガは数多くの踊り子を主題にした作品を描いていますが、その多くは舞台裏や練習風景を描いたものです。 画面のメインとなる手前の人物を画面中央からはずし、左手前方を大きく開けた構図は彼の作品の特徴の一つです。 一瞬の動きを切り取ったような画面構成がドガの作品の最大の特色です。 モリゾ 窓辺にいる画家の姉 1869 白いドレスの質感が見事な作品です。 モリゾは家族をモデルに多くの作品を描いています。 これは当時女性が家族以外の男性にモデルを依頼するのは不適当であると考えられていたためです。 女性が正式に美術学校への入学を認められていない時代にあって、彼女は画家として制作に励んでいました。 モネ 日傘の女性、モネ夫人と息子 1875 散歩の途中、一瞬立ち止まったような画家の妻と息子の姿を見上げるような視点で描いた作品です。 流れる雲、風にそよぐ草叢、たなびくドレスの裳裾など、空気の表現が実に巧みです。 モネ 太鼓橋 1899 ジヴェルニーの自宅に造った「水の庭」は、やがて彼にとって唯一の主題となってゆきました。 「日本風」の太鼓橋も何点も描いています。 深い緑の草木や水面に対し、白い睡蓮の対比が美しい作品です。 3.後期印象派と新印象派 セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャンのいわゆる「後期印象派」とスーラをはじめとする新印象派の作品で構成されていました。 セザンヌ アルルカン 1888-90 アルルカンはイタリア喜劇に登場する道化で、この作品に見られるようにダイヤモンド模様の衣装と三日月形の帽子を身に着けています。 鮮やかな色彩の衣装と、細かな筆遣いによって描かれた抑えた色彩の背景 そして簡潔に描かれた人物のフォルムにより、全体が引き締まった印象を受ける作品です。 4. 世紀末から20世紀へ ロートレック、ボナール、ルドン、マティス、ピカソと19世紀末から20世紀の絵画の流れを追うような展示構成でした。 ルドン 花瓶の花 1910頃 ルドンは花を愛し、丹精こめて花を描き続けました。 彼にとって花を描くことは精神的なものと現実的なものの融合を実現させることでした。 この作品に描かれた花もどこにでもある夏の花々ですが、夢幻的な雰囲気を醸し出しています。 5.オールド・マスターズ 特別出品として16世紀から18世紀のフランス以外の画家の作品が選ばれていました。 ティツィアーノ、ティントレット、エル・グレコ、ヴァン・ダイク、ライスダール、フェルメール、カナレット、レイバーンです。 ティツィアーノ 女性の肖像 1555頃 この作品のモデルは彼の娘ラヴィニアであるとも考えられましたが、現在では人物の特定はなされていません。 この時期ティツィアーノはヴィーナスを何点も描いていますが、そのヴィーナスと顔立ちがよく似ています。 緑のドレスのと生き生きとした肌の色が、色彩画家としての力量をよく示しています。 ライスダール 風景 1670頃 画面の中央を占める大きな木と、どんよりと曇った空が作品全体を支配しています。 ライスダールは実に巧みに大気の質感を描き出しています。 フェルメール 手紙を書く女 1665-66頃 「手紙を書く女」についてはこちら(クリック時音量にご注意ください)をご覧ください。
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