3    美―スフィンクス
更新日時:
2005/08/19
われは 美し、人間よ、あたかも石の夢の如し。
人は こもごも わが胸に 触れては傷を負いたれど、
胸は 物質さながらの 永遠にして無言なる
愛を 詩人の霊(たましい)に与ふるために 生れたり。
 
蒼空の玉座にわれの就く姿 解き得ぬ謎のスフィンクス、
雪の心を 白鳥の真白き色に 結ぶわれ、
線を動かす運動を われは嫌忌し、
かつて われ 泣かず 笑はず 永劫に
 
傲(ほこり)かに立てる記念の石像に 貌(かたち)を借りて
粛然と わが構へたる形容の前に、詩人は
習作の苦行に 日々を使ひ盡(はた)さむ。
 
蓋(けだ)し われ、この従順なる恋人を 惑はすために、
万物を 更に美と為す純粋の鏡を 持てり、
そはわが眼(まみ)ぞ、永遠の光明燦たる 大いなる眼。
ボードレール「美」
 
 
モロー スフィンクス
1886 31.5×17.5cm クレメンス=ゼルス美術館



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