西洋絵画の中のシェイクスピア展 1993年2月19日〜3月28日 高松市美術館 ![]() シェイクスピアの劇作は特に18世紀以降の英国において重要な絵画モティーフとなりました。 この展覧会では、シェイクスピア劇にインスピレーションを得た作品をテーマ別系統別に展示し、 シェイクスピア劇に対する画家たちのアプローチを示すとともに 各時代の名優の姿も時代を追って展望できる構成になっていました。 ![]() 展示構成 1.プロローグ イントロダクションとしてシェイクスピア全体に関連する作品が紹介されていました。 ウィリアム・ブレイクやフォード・マドックス・ブラウンによるシェイクスピアの肖像画や シェイクスピア劇の登場人物たちを描いた作品が展示されていました。 2.名優ギャリックの時代 デイヴィッド・ギャリック(1717-79)は18世紀英国の最も偉大な俳優で、1741年に「リチャード三世」の主役でデビューしました。 彼にとってシェイクスピアは「神」であり、彼が1776年に引退するまで支配人を務めたドゥルリー・レイン劇場は シェイクスピアの名声を「祀る聖所」でした。 またギャリックは多くの芸術家を雇い、劇場の舞台背景を描かせたり、数多くの肖像画を残しています。 このセクションでは、ギャリックの活躍した18世紀中期〜後期に制作されたシェイクスピア劇関連の作品が紹介され、 ヘンリー・フューズリらの作品が展示されていました。 3.ボイデルのこころみ 彫版師ジョン・ボイデル(1719-1804)は「シェイクスピア・ギャラリー」で、シェイクスピアを一連の作品で総体的に絵画化しました。 167点の油彩画が32人の画家によって「シェイクスピア・ギャラリー」の原画として描かれ、ボイデルによって版画集として発行されました。 レノルズ、フューズリ、アンゲリカ・カウフマンといった当時の人気画家が「シェイクスピア・ギャラリー」に参加しています。 この「シェイクスピア・ギャラリー」の作品は現在では大半が行方不明となってますが、 現存する作品の中から2点展示されていました。 そのほか同時代のシェイクスピア劇関連の作品が展示されていました。 4.ロマン主義運動 シェイクスピアはロマン主義が重んじた激しい情念や自然を鑑みる深い眼差しを表現する題材として好まれました。 キーツ、バイロン、シェリー、ワーズワースがこぞってシェイクスピアを賞賛し、 ブレイク、ダンビーといったロマン主義の画家たちは数多くシェイクスピアを絵画化しています。 この頃フランスでもシェイクスピアの人気が高まり、 ドラクロワはシェイクスピアを題材にした多くの作品を描いています。 5.初期ヴィクトリア朝 1830年代から1840年代すなわちヴィクトリア女王即位の前後十年間に活躍した画家の作品で構成されていました。 このころ画家たちのシェイクスピアに対する関心は過去にないほど高まり、 ロイヤル・アカデミー展に出品されたシェイクスピア主題の作品も急増しました。 6.ラファエル前派 ラファエル前派の画家たちはは英国の芸術を蘇生させる使命を持っていると信じ、自分たちを「詩人=画家」とみなしていたため 国民詩人としてシェイクスピアを見直しました。 しかし、やがてラファエル前派は象徴主義の方向へ転換していき、 シェイクスピアは彼らの運動の想像力にとって魅力的なものではなくなってゆきました。 ロセッティ、ミレーといったラファエル前派同盟の中心にいた画家や ペイトン、デヴァレルといったラファエル前派周辺の画家の作品が展示されていました。 7.名優アーヴィングの時代 ヘンリー・アーヴィングはヴィクトリア時代を代表する俳優で 1878年から1902年にかけてロンドンのライシーアム劇場の俳優兼支配人として活躍しました。 19世紀英国の演劇は贅沢なものとなり、アーヴィングはライシーアム劇場での公演で 豪華な舞台装置、きらびやかな衣裳、目を奪う照明、作曲を特別に委嘱した音楽を用い 画家に衣裳や舞台装置のデザインを依頼し、舞台に絵画的な幻惑効果を与えようとしました。 ワッツ、レイトン、ウォーターハウス、サージェントといった 19世紀後半から20世紀初頭に活躍した画家の作品が展示されていました。 8.エピローグ 1890年代以降文学作品の登場人物を主題に絵画を描くことがはやらなくなってきました。 このころ盛んになったのが本の挿絵です。挿絵は1890年頃から1914年にかけて「黄金時代」を迎えていました。 アニング・ベルやアーサー・ラッカムといった画家がシェイクスピア劇を題材にした挿絵を描いています。 この展覧会の最後を飾るのがフランク・カドガン・クーパーで、彼は1950年代までラファエル前派的な作品を描き続けました。 ![]() 主な作品 フランシス・ダンビー 「夏の夜の夢」から 1832 オールダム・アート・ギャラリー ダンビー(1793-1861)は本来風景画家であり、シェイクスピアをテーマにした典型的な画家ではありませんでした。 しかし、この作品は妖精の王オベロンが妻である妖精の女王タイテーニアを訪ねる場面を幻想的なタッチで描いています。 ドラクロワ オセロとデズデモーナ 1847 カナダ国立美術館 ドラクロワは当時フランスでようやく評価され始めたシェイクスピア作品を愛好し 「ハムレット」や「オセロ」を題材にした作品を数多く描いています。 この作品は「オセロ」の5幕2場を描いたもので、嫉妬に狂ったオセロが妻の眠る寝室に入るところです。 リチャード・レッドグレイヴ 花輪を編むオフィーリア 1842 ヴィクトリア&アルバート美術館 「オフィーリア」を描いた比較的早い作例で、ロイヤル・アカデミーでも好評を博した作品です。 作中には30種に及ぶ花が描かれ、それらは「花言葉」によってオフィーリアを連想させる概念を象徴しています。 白いドレスを着て花輪を頭に載せ緑葉で作った結婚指輪をはめた彼女は、ハムレットの花嫁である自分自身を幻視しています。 ジョゼフ・ノエル・ペイトン オベロンと人魚 1883 明星大学 ペイトン(1821-1901)は妖精の主題を熱烈に愛し、 「オベロンとタイテーニアの仲違い」「オベロンとタイテーニアの仲直り」の対になる2作品を描いています。 この作品は「真夏の夜の夢」2幕1場、オベロンがパックに話しかけるところを描いています。 ロセッティ オフィーリアの狂乱 1864 オールダム・アート・ギャラリー この作品はロセッティが初期に描いた一連の水彩小品の最後のもので、中世の彩色手稿を思わせる輝かしい色彩が特色です。 彼はシェイクスピアの戯曲に基づいて多くの作品を描いていますが、「ハムレット」が一番魅力的な題材であったようです。 この作品についてはこちらもあわせてご覧ください。 ジョン・エヴァレット・ミレー オフィーリア頭部・習作 1851-52 バーミンガム市立美術館 1852年のロイヤル・アカデミーに出展された「オフィーリア」の習作です。 モデルを務めたのは後にロセッティの妻となるエリザベス・シダルで、この習作は寝椅子に横たわった状態で描かれてるようです。 ジョージ・フレデリック・ワッツ オフィーリア 1864頃 ワッツ・ギャラリー モデルは後に英国を代表する女優となるエレン・テリーで、ワッツとの短い結婚生活の間に描かれた作品の一つです。 エレン・テリーについてはこちらもあわせてご覧ください。(クリック時音量にご注意ください) ウォーターハウス オフィーリア 1910 個人蔵 ウォーターハウスは主題的にはロマン派とラファエル前派の伝統に連なる画家です。 一方技法的には大胆な印象主義的技法も取り入れており、本作品でも背景の草叢や小川などにその技法が見られます。 アーサー・ラッカム 夏の夜の夢 ヴィクトリア&アルバート美術館 この作品はオベロンが見た人魚を描いています。 下の円の中にエリザベス1世の肖像が描かれていますが、女王の治世にこの戯曲が書かれたことを示しています。 |