ペルジーノ 『聖セバスティアヌス』 1490〜1500頃
176×116cm ルーヴル美術館

甘美な聖母子像で知られるペルジーノによる聖セバスティアヌス像です。

柱に縛り付けられ矢を射掛けられているにもかかわらず、
天を仰ぐ表情は実に穏やかで全く苦悶の様子が見られません。
説話的要素の一切が排された画面は礼拝のための図像とも考えられますが
非常に美しい作品であるにもかかわらず宗教的激情を感じ取ることは困難です。

マンテーニャのセバスティアヌスは全身に矢を受けたまさに満身創痍の姿で描かれていましたが、
ペルジーノのセバスティアヌスはわずか2本の矢しか受けていません。
この矢は裸体の青年がセバスティアヌスであることを示すために描かれたものです。
聖人の殉教図というよりも理想化された美しい肉体を愛でるための作品という印象を受けます。



ペルジーノ 『聖セバスティアヌス』 1495
110×62cm ボルゲーゼ美術館

上の作品とほぼ同じ構図ですが、矢の数は5本で傷口から血が流れています
ルーヴル作品が非常に滑らかで中性的な姿態であったのに対し、
こちらのセバスティアヌスはやや男性的な肉体に描かれています。



ペルジーノ 『聖セバスティアヌス』 1493〜94頃
53.8×39.5cm エルミタージュ美術館

首に刺さった銘文入りの矢は彼が殉教聖人であることの証ですが、
瑞々しい肉体美は異教の神を思わせます。



ロレンツォ・コスタ 『聖セバスティアヌス』 1490〜91
55×49cm ウフィツィ美術館

ペルジーノ作品とほぼ同時期に描かれたセバスティアヌス像です。
2本の矢ははっきりと描かれているものの、物憂げな表情はあくまでも甘美です。



アントネッロ・ダ・メッシーナ 『聖セバスティアヌス』 1475〜77
171×86cm ドレスデン美術館

ペルジーノと同時代のシチリア出身の画家の作品で、三連祭壇画の一部であったと考えられています。
こちらも数本の矢を受けているにもかかわらず、表情は穏やかで痛み苦しみは全く感じ取れません。
建物や人物が細かく描きこまれていますが、それらは実に日常的な情景で、
矢を受けた聖人像と対比すると非常にシュールな印象を受けます。



ボッティチェリ 『聖セバスティアヌス』 1474
195×75cm ベルリン美術館

ボッティチェリが得意としたヴィーナスや聖母同様の憂愁を帯びた表情が印象的です。
また彼は両性具有的な天使を数多く描いていますが、
そうした天使たちにも通ずるような美しさをもたたえています。

中世において裸体表現はタブー視されていましたが、
ギリシア・ローマ時代の美の復興を目指したルネサンスにおいて
裸体の美しさを追求することが再び行われるようになりました。
青年裸体像を描くための格好の題材として選ばれたものの一つが聖セバスティアヌスです。


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