サロメの化粧
![]() わたくしの奴隷たちが、香料と七つの面紗とを持って来て、わたくしの靴を脱がせてくれるのを、待っているのでございます。 ワイルド『サロメ』より
サロメが舞踏をするために化粧をするという場面はワイルドの戯曲には登場せず、 『サロメの化粧』という主題はビアズリー独自のものといえます。 19世紀当時の流行のファッションに身を包んだサロメに 仮面をつけピエロの衣裳を着た化粧師が白粉をはたいています。 化粧台や部屋の様子なども大変モダンで、現代の美容院にも通じる雰囲気です。 化粧台の下には何冊かの本がありますが、それらは 『黄金の驢馬』(「プシュケとアモール」の物語も収録されている古代ローマの書物) 『マノン・レスコー』(18世紀フランスの小説で「ファム・ファタル」を描いた物語としては最初のものとされています) 『マルキ・ド・サド』、ゾラ『ナナ』などで いずれも名だたる背徳小説とみなされていました。 この『サロメの化粧』は第2作で、第1作が検閲にひっかかった為制作されました。 ![]() 道化姿の化粧師、モダンな化粧台などは第2作にも踏襲されています。 こちらでも化粧台の下に本が置かれており、 それらはボードレール『悪の華』ゾラ『大地』などです。 第2作に描かれた人物はサロメと化粧師だけですが、 第1作では三人の小姓が描かれています。 この『サロメの化粧』が検閲に引っかかったのは 三人の小姓のうちの一人の行動によります。 左下の腰掛けた小姓はサロメの姿をみて自らを慰めています。 そしてサロメも左手の位置や恍惚とした表情から 同様の行為に耽っているとみなされました。 そのため検閲によって書き直しを命じられたものです。 戯曲『サロメ』には サロメのヨカナーンの口に対する欲望(フェティシズム) 川に映る自分の姿を見ることを好んだナラボ(ナルシズム) ナラボに思いを寄せるヘロディアスの小姓(ホモセクシャル) ヘロデのサロメへの執着(ロリータ・コンプレックス)など 様々な性的倒錯が登場しています。 ワイルドの表現は現代の感覚では控えめなものですが、 それらをあからさまな形にしてしまったのがビアズリーの挿絵なのです。 |