プラート美術の至宝展
 
 
 

2006年2月9日にひろしま美術館にて見た展覧会です。
プラートはフィレンツェに隣接した都市であり、
美術においても常にその影響を大きく受けてきました。
この展覧会では
14世紀自治都市であった時代から、フィレンツェの直轄領となってからの時代
そして17世紀プラートが教会の教区として独立してからに至る
プラートの都市としての歴史を美術作品によってたどるといった展示構成でした。
 
 
展覧会最大の呼び物はフィリッポ・リッピの手による祭壇画です。
フラ・ディアマンテとの合作の「身につけた聖帯を使徒トマスに授ける聖母および聖グレゴリウス、聖女マルゲリータ、聖アウグスティヌス、トビアスと天使」と
「聖ユリアヌスをともなう受胎告知」の2点が展示されていました。
 
 
「身につけた―」はプラートに伝わる聖帯伝説を題材とした祭壇画で、
被昇天した聖母マリアが自分が身につけていた帯を、
使徒トマスに与えたという物語を描いています。
この祭壇画はサンタ・マルゲリータ修道院長の注文により描かれたもので、
画中に修道院長を伴った聖女マルゲリータが描かれていますが、
聖女の姿はリッピの愛人であった尼僧ルクレツィアに似せているといわれています。
確かにルクレツィアがモデルであるとされている、
リッピ作の聖母マリアとよく似た顔立ちをしていました。
 
 
「聖ユリアヌスをともなう受胎告知」はリッピとフラ・ディアマンテの共作と
リッピの弟子による模写の2点が展示されていました。
全体の構図は全く同じですが、
色彩や人物の表情といった微妙なところはオリジナルのほうが繊細に表現されていました。
ルネサンス時代には絵画は工房で制作されるものであり、
オリジナルの作品を元に工房の画家たちが制作するということが行われていました。
 
 
ルネサンス時代に流行した“トンド”(円形画)も何点か展示されていましたが
ラッファエッリーノ・デル・ガルボ「聖母子と幼き洗礼者ヨハネ」の
色彩の美しさが印象に残りました。
 
 
ルネサンスからマニエリスム、バロックと時代の変遷を追う形の展示で、
バロック期になるとカラヴァッジョ風の様式の作品が描かれるようになります。
バロック時代の作品で印象に残ったのが
サッソフェラート「祈りの聖母マリア」です。
「マーテル・アマービリス(愛すべき聖母)」と呼ばれる図像で
暗い背景の中穏やかな表情で静かに祈る聖母の上半身が浮かび上がるように描かれています。
 
 
作品展示のほかにも、リッピが制作したプラート大聖堂の壁画についてのパネル展示や
プラートの歴史についてのパネル展示が詳しく行われていました。
展示作品の総数はそれほど多くはなく、
またいわゆる「有名画家」の作品もほとんどありませんでしたが、
イタリア都市国家の歴史をたどることができ、
またほとんど日本で展示されることのないゴシック期やルネサンス期の作品を見ることのできる
有意義な展覧会だと思いました。
 


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