19世紀芸術家たちの楽園―オルセー美術館展
 
 
 

この展覧会は「モデルニテ:パリ近代の誕生」(1996)
「19世紀の夢と現実」(1999)に続くオルセー美術館展3部作の集大成として開催されました。
(パンフレットより)

今回のテーマは19世紀の芸術家たちと
彼らの創作の源となった人間関係や場所との親密な関係についてとなっています。
私の好きな作品を中心に取り上げていきたいと思います。


T 親密な時間
芸術家を囲む家庭的な人間関係の中で生まれた作品が紹介されています。

モリゾ ゆりかご 1872
画家の姉とその子どもを描いた、彼女の代表作です。
1874年の第一回印象派展に出品されました。
母親の穏やかな表情と眠る赤ん坊の顔の愛らしさ、
ゆりかごを覆う白いモスリンの布の質感表現が見事な作品です。

ルノワール ジュリー・マネ 1887
モデルはモリゾとマネの弟ウジェーヌの間に生まれた娘です。
ルノワールの作品といえば暖色のイメージがありますが、
この作品は白とグレーを基調に背景のピンクがアクセントとなった
落ち着いた色彩で描かれています。
輪郭線を用いて描いた「アングル風の時代」の代表作です。

ルドン セーラー襟のアリ・ルドン 1897頃
ルドンといえば幻想的な物語画や花瓶の花を描いた作品がよく知られていますが、
この作品は彼の息子を描いた作品です。
ルドンは妻や息子との満ち足りた暮らしの中でパステルカラーの夢を生み出すようになりました。


U 特別な場所
芸術家にとって創作活動に決定的影響を及ぼした「場所」に焦点を当てています。
モネの「ルーアン大聖堂」やブーダンの「トルーヴィルの海岸」
シスレー描く「セーヌ川」ピサロ描く「田園風景」など
いずれもそれぞれの画家にとって重要な「場所」です。

ルドン ペイルルバードの道
  初期に描かれた風景画です。
ペイルルバードはルドンが生後2日目で里子に出され、
両親と離れて幼少期を過ごした村です。
ここでの孤独な生活と自然が彼の原風景になったといわれています。
空の色は美しいのですが、どこか寂寥感を感じる風景は彼の心情を表しているのでしょう。
ルドンが40歳を過ぎた頃ペイルルバードの土地が人手に渡ります。
彼はペイルルバードの呪縛から解き放たれたかのように
それまでのモノクロームの悪夢からパステルカラーの美しい夢を描くようになってゆきます。


V はるか彼方へ
ロマン主義の台頭以後芸術家の多くは遠い異郷・異国への憧れに取り付かれます。
19世紀後半になると実際に未知の土地に向かって旅をする芸術家も現れました。
ゴッホにとってのアルル、ゴーガンにとってのタヒチ、
ベルナールにとってのブルターニュなど
どれも彼らの「憧れの異郷」でした。
セザンヌのように故郷の風景に「憧れの土地」を見出した者もいました。

モーリス・ドニ 天国 1912
著作権の関係上画像をUPしておりません。
ブルターニュのドニの別荘の庭で遊ぶ天使と彼の孫たちを描いた作品です。
海辺の別荘の花咲き乱れる庭の様子は現実に即して描かれていますが、
天使と子どもたちの戯れという幻想的な要素が盛り込まれています。
彼にとって家族と過ごす日常こそが「天国」であったことを表しています。
薔薇色が画面を支配する美しい作品です。

このほかイスラム風の装飾が施された陶器やガラス器
カイロやエルサレムの風景写真などが展示され、
当時のヨーロッパの人々の東方世界への憧れを垣間見ることができます。


W 芸術家の生活―アトリエ・モデル・友人
芸術家の創作空間であるアトリエとそれを取り巻く人間模様に焦点を当てています。
バジールやファンタン=ラトゥールの描くアトリエに集う芸術家仲間
ルノワールは絵筆を持つモネを描き、
ドガはマネの姿をデッサンに留めています。

マネ すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ 1872
詩人ヴァレリーに絶賛された作品です。
マネはモリゾをモデルに数々の作品を描いています。
モリゾは常に黒か白の服を身に着けた、美しく魅力的な女性だったそうです。


X 幻想の世界へ
芸術家の内面が現れた幻想と神秘・象徴の世界が紹介されています。
オルセー美術館といえば「印象派の殿堂」というイメージが強いのですが、
19世紀芸術は写実主義・印象主義だけでは語ることができません。
もう一つの重要な潮流が象徴主義です。
オルセー美術館には象徴主義の作品も数多く所蔵されています。

ペリッツァ・ダ・ヴォルペード 死せる子供(あるいは夭折の花)1895-1906
ペリッツァ・ダ・ヴォルペードはイタリア人の画家です。
この作品は故郷の村で目にした子どもの葬礼を描いたもので、
死と慰霊の象徴的光景を表現しようとしたものです。

そのほかクノップフによる妹マルグリットをモデルにした写真や
英国の女性写真家ジュリア・マーガレット・キャメロンによる写真作品も展示されていました。
キャメロンの写す女性像はラファエル前派の絵画作品の影響を受けたもので、
それまでの肖像写真とは異なり、独自の詩情あふれる世界を作り出しています。

今回の展覧会では「印象派絵画」だけではないオルセー美術館の姿を見ることができました。
19世紀の芸術家たちを取り巻く「人」や「場所」の魅力が伝わってきたようです。
 


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