マリアナ

濠をめぐらした屋敷のマリアナ
(『尺には尺を』)
 

黒々とした苔で花園は
  どれもこれも分厚くおおわれて、
錆びた釘は抜け落ちていた
  梨の木を妻壁にとめた結び目から。
こわれた小屋はもの悲しく、人気なく。
  カタカタ鳴る掛け金ははずされた気配もなく、
  古びた茅葺きは雑草が生え、荒れ果てて、
濠をめぐらすこの屋敷はさびしいばかりだった。
     乙女はただ「私の人生は侘しいわ。
      あの人が来ないから」と言った。
     乙女は言った、「寂しくて、寂しくてしようがない。
      もういっそ死んでしまいたい!」

夕べ、乙女の涙は草の露とともに落ち、
  その涙のかわかぬうちにも乙女の涙はまた落ちて、
やさしい大空も仰げなかった。
  朝がたにも日暮れどきにも。
こうもりの群れが飛び交ったあと、
  漆黒の闇が大空をつつむとき、
  乙女は窓辺のカーテンを引き寄せ
暮れゆく平原を見やるのだった。
    乙女はただ「今宵は寂しいわ。
     あの人が来ないから」と言った。
    乙女は言った、「寂しくて、寂しくてしようがない。
     もういっそ死んでしまいたい!」

夜の真っ只中に、
  乙女は目覚めて夜鳥の鳴く声を聞き、
雄鶏は夜明けの一刻前に鳴き、
  暗い沼地からは牡牛たちの声が
乙女のところに聞こえてきた。好転の望みも失せて、
  夢の中でさえ乙女は侘しく歩むように思えた。
  やがて冷たい風が灰色の眼の暁を目覚まし、
濠をめぐらした寂しい屋敷にも朝がやってきた。
    乙女はただ「今日は侘しいわ。
     あの人が来ないから」と言った。
    乙女は言った、「寂しくて、寂しくてしようがない。
     もういっそ死んでしまいたい!」



ロセッティ マリアナ



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