影の世界にはもううんざり、とシャロットの女は言う
ウォーターハウス 1915 100.3×73.7cm
トロント オンタリオ美術館


 第二部
館にて夜となく昼となく姫の織るは
彩(いろ)あざやかな魔法の織物。
姫はある囁きを耳にしたのだ、
それはある呪いが姫に降りかかるとのこと、
  姫がじっとキャメロットを見下ろし続けるならば。
その呪いがいかなるものか姫は知る由もない、
それゆえ姫は絶え間なく織り続ける、
ほかにわずらうこともなく
  シャロットの姫君は。

一年中姫の前にぶら下がる
澄んだ鏡に映るのは
この世の出来事のうごく影。
鏡に映るは大道の一筋、くねくねと曲がりつつ
  キャメロットへと通じゆくさま。
川の流れに渦が巻き、
村の男たちは愛想なく、
赤い外套羽織る市場の女たち、
  みんな揃ってシャロットを過ぎてゆく。

時おり嬉々とした乙女たちの一群、
ゆったりと歩む馬に跨る修道院長、
時として巻毛の羊飼いの若者、
また深紅の衣装をまとった挑発の騎士見習いなどが
  多塔のお城キャメロットを目指し、過ぎてゆく。
また時として青い鏡を通して
騎士たちが三々五々、馬に跨りやってくる。
姫には誠実を誓う真の騎士はいない、
  シャロットの姫君には。

しかしいつも嬉々として姫が織物に織りなすは
鏡に映る異様な景色の数々、
夜の静寂(しじま)の中をいくたびも
葬儀の列が羽根飾り、松明、
  そして楽の音に伴われてキャメロットへ向かうのだ。
また月が頭上に輝く夜半に
結ばれたばかりの若い恋人ふたりがやってきた。
「わたしは半ば影の世界が嫌になったわ」と言った、
  シャロットの姫君は。


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