ソドマ 『聖セバスティアヌスの殉教』 1525
204×145cm フィレンツェ ピッティ宮殿

ソドマ(本名:ジョヴァンニ・アントニオ・バッツィ)はシエナ派後期の画家で、
レオナルドの影響を強く受けた画風で知られています。
『聖セバスティアヌスの殉教』においても
ぼかしの技法や人物のポーズなどにレオナルドの影響が見受けられます。

この作品は1525年にシエナでペストが流行したときに
その退散を願う行列の旗として描かれました。
画家の代表作であり、「聖セバスティアヌス」を描いた作品として最も知られたものの一つです。

セバスティアヌスの均整の取れた美しい肉体からは血が流れ
矢は彼が殉教聖人であることを示す単なる印ではなく、
本当に彼の身を痛めつけるものであることを見せ付けます。
彼の涙を流す表情は痛みに耐えるようにも法悦の様子にも見えます。
受難に耐え栄光を授けられる聖人としてのセバスティアヌスと
肉体に与えられた痛みに苦悶する生身の青年としてのセバスティアヌスという
聖俗併せ持つセバスティアヌスの姿が見事に描き出された作品です。

画家の通称「ソドマ」とは「ソドムの男」すなわち「男色者」を意味します。
ヴァザーリの『画人伝』によると、
この通称の由来は特に少年を愛好したからであるとされています。
この時代男色に対しては厳しい処罰がありましたが、
彼は「ソドマ」の名を堂々と用いながらも、処罰されることはありませんでした。

青年裸体像を描くための格好の題材として描かれるようになったセバスティアヌスですが、
この題材には「苦痛を受ける美青年」という
サディスティックでホモエロティックな要素が含まれています。
そういった倒錯的で官能的な魅力と宗教的激情が融合した作品が
ソドマの『聖セバスティアヌス』といえるでしょう。


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