プーシキン美術館展
 
 
 

2006年1月12日に国立国際美術館で開催されたプーシキン美術館展を見ました。
 
 
プーシキン美術館は1912年にモスクワ大学の付属美術館として開館しました。
その後ロシア革命を経て国立美術館となり、
1937年には文豪プーシキンの没後100年を記念して
「国立A.S.プーシキン記念美術館」と改称され現在に至ります。
所蔵品は古代エジプト、メソポタミア、ギリシア・ローマ美術に始まり
ルネサンスから現代に至るヨーロッパ絵画、
さらには東洋美術までの、ロシア美術以外のあらゆる分野に及んでいます。
ちなみにロシア美術は同じくモスクワにあるトレチャコフ国立美術館に所蔵されています。
 
 
今回のプーシキン美術館展に出品されていたのは、
プーシキン美術館のコレクションの中でも最もよく知られている
シチューキンとモロゾフのコレクションの一部です。
セルゲイ・イワノヴィッチ・シチューキンは、実験的・前衛的な作品を集めました。
彼はマティスやピカソなど当時まだ無名だった画家を支えたコレクターです。
光と闇のコントラストを描き出す画家の特性の片鱗を見せているように思います。
イワン・アブラモヴィッチ・モロゾフは、評価に値する名作を体系的にそろえました。
彼はセザンヌやボナールといった穏やかで装飾的な作品を好みました。
彼らのコレクションはロシア革命後国有化され、
1948年からプーシキン美術館とエルミタージュ美術館に分割して所蔵されています。
 
 
展示は以下のような構成です。
 
 
印象主義 モネ、ルノワールとその周辺
ルノワール「黒い服の娘たち」は、
画家が印象主義的技法を離れ、線描による表現を模索していた「乾いた時代」に描かれた作品です。
モネ「白い睡蓮」はモネの水の庭の太鼓橋を望む風景を描いた作品です。
全体が緑で構成されている中、水面に浮かぶ睡蓮の白とピンクが印象的です。
このほか、ピサロ、シスレーといった画家の作品が展示されていました。
 
 
セザンヌと新印象主義
セザンヌの作品2点とシニャック、マンギャンといった画家の作品が展示されていました。
 
 
象徴主義 ゴーギャンとゴッホ
近年ではゴーギャンおよびゴッホは印象主義ではなく
むしろ象徴主義の画家であるとの意見が強くなっています。
この展覧会でもゴーギャンとゴッホは象徴主義の画家としての扱いです。
フランス象徴主義の画家ピュヴィ・ド・シャヴァンヌの「貧しき漁夫」は静かな祈りに包まれた作品です。
ゴーギャン 「彼女の名はヴァイマルティといた」は、タヒチの創造伝説に登場する美女ヴァイマルティを描いた作品です。
ゴッホ 「刑務所の中庭」は刑務所の中庭で運動をする囚人を描いた作品で
ゴッホといってまず連想する燃えるような色彩はありませんが
重厚なタッチで人間の生を描いたある意味ゴッホらしい作品であるといえます。
しかしこのセクションで最も印象に残ったのは
カリエール 「指から棘を抜く女」 「母の接吻」の2点です。
フランス象徴主義の画家カリエールは、薄もやのかかったようなモノクロームの画面に静謐な世界を描き出す画家です。
 
 
ナビ派とアンティミスト
ゴーギャンの影響を受けたドニ、ボナールといった画家たちのグループがナビ派です。
「ナビ」とはヘブライ語で「預言者」を意味します。
ドニは平面的で装飾的な画風で知られていますが、
後年聖書や神話を基にした題材を好んで取り上げるようになります。
今回展示されていた「ポリュフェモス」もそういった作品のひとつですが
人物や背景の表現がモダンであるのが印象的です。
ボナール 「洗面台の鏡」は洗面台および洗面道具と鏡に映る人物・部屋の様子が
同じようなタッチで細かく描き出され、装飾的効果を高めています。
 
 
マティスとフォーヴィスム
ここには今回の最大の呼び物である マティス「金魚」が展示されていました。
鮮やかな色彩、金魚のひょうきんな表情、周りの花々などとても明るい印象の作品です。
金魚は当時東洋趣味にあふれる観賞魚として上流階級の間でもてはやされました。
そして金魚鉢の周りに咲く花々も南国原産の植物を想定して描かれたとされています。
そういったモティーフを効果的に用いて、装飾的な美しさが高まった作品となっています。
マティス 「白い花瓶の花束」も装飾美あふれる作品です。
 
 
フランス近代版画 マネからピカソまで
エッチング、リトグラフ、木版画を展示しています。
ルドンのリトグラフもありました。
ルドンは晩年には美しい色彩で花や神話の世界を描きましたが、
それまではずっとモノクロームで奇怪な幻想を描いていました。
今回展示されていた「光」も黒の世界を描いた作品です。
 
 
ピカソとキュビスム
まず目に入ったのが 素朴派と呼ばれるアンリ・ルソーの作品です。
正規の美術教育を受けていないルソーの作品は、今で言う「下手うま」な魅力を持っています。
ピカソ 「女王イザボー」は実在のフランス王妃イザボーを題材にした作品です。
 


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