彼は横たわっていた。布で蔽われた顔は
冷い褥のなかで 蒼白く 峻拒していた。
世界と世界を知ることとが
彼の感覚から奪われて
かかわりもない歳月にかえっていったときから
生前の彼を見た人たちは
すべてのものと一つになった彼を知らなかった。
この深さ、この草原
この水、それは みな 彼の顔であった。
おお、彼の顔こそ、このすべての広がりだったのだ。
今もなお彼のもとへ赴こうとし、彼を奪おうとするこの広がり。
不安そうに今死滅する形骸は
空中に腐る木の実の
内界のように、やさしく ひらかれている。
リルケ「詩人の死」
星野慎一 訳
モロー 死せる詩人を運ぶケンタウロス
1890頃 25×24.5cm
パリ ギュスターヴ・モロー美術館

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