甘美なる聖母の画家 ペルジーノ展
 
 
 

この展覧会は「日本におけるイタリア2007・春」の一連の文化行事として開催されたもので、
国内でペルジーノを本格的に紹介する展覧会は初めてでした。

ペルジーノはピエロ・デラ・フランチェスカ以来
ウンブリア派伝統の確かな空間構成を受け継ぎながらも、
聖母や天使の姿に見られる甘美な様式を確立し、
それはラファエロに継承され、ヨーロッパ中に広まっていきました。

展示はペルジーノ以前のペルージャの画家の作品数点と、
ラファエロやピントリッキオ周辺の画家による作品数点を除くと
ほとんどがペルジーノもしくはその工房による作品で構成されていました。

印象に残った作品をいくつか紹介します。

サンテ・ディ・アポロニオ・デル・チェランドロ『聖セバスティアヌス』
ペルジーノよりも少し以前にペルージャで活躍した画家の作品です。
矢を射掛けられて殉教した聖セバスティアヌスは
矢傷がその病痕と似ていることから
中世に猛威を振るったペストから守護してくれる聖人として崇められました。
この作品は色彩や硬質なタッチがマンテーニャによる同題材の作品とよく似ています。
しかし聖人の甘さを宿した表情は、
後にペルジーノが描くセバスティアヌスに連なっているようです。

ペルジーノ『ピエタのキリスト』
もとはペルージャの政庁舎プリオーリ宮殿内の礼拝堂に掲げられていた祭壇画の一部です。
18世紀末ナポレオン軍によって
聖母子と守護聖人たちを描いた中央祭壇画がフランスに運ばれ、
後にイタリアに返還されますが、
ヴァティカン宮殿に納められ、現在もヴァティカン絵画館に所蔵されています。
中央パネルは19世紀の画家による模写が納められていますが、
ペルジーノのオリジナルであるキリスト像の繊細な描写と比較すると
模写のほうは柔らかさに欠けるように感じられます。

ペルジーノ『慰めの聖母』
ペルジーノの確実な真筆の一つとされる作品です。
保存状態が非常によく、鮮やかな色彩を今なお保っています。
優美な聖母子は背後で礼拝する鞭打ち苦行者たちにとって
まさに「慰め」を与えてくれる存在だったのでしょう。
天上から聖母子を礼拝する二人の天使に
私はどこか東洋の「飛天」の面影を感じ取りました。

ラファエロ周辺の画家『書物の聖母』
初期のラファエロの聖母の顔立ちは、ペルジーノの描く聖母とよく似ています。
この作品はラファエロの下絵をもとに、
ペルージャでラファエロの同輩であった画家が完成させたものと考えられています。
伏し目がちの細い目、小作りの鼻と口元、ふっくらとした頬など
この聖母を見て私がまず連想したのが能面「小面」です。
西洋の甘美と東洋の幽玄は相通じるところがあるのでしょうか?

ペルジーノ周辺『ウェヌスとクピド』
今回展示されている作品のほとんどはキリスト教絵画ですが、
この素描は非常に優美な異教の女神像です。
流れるような線描に、宗教画では見られない美を感じ取りました。

ペルジーノ『少年の肖像』
今回展示されている作品としては唯一の肖像画であり、
ある意味異質な作品です。
ペルジーノが描く聖母子や天使、聖人たちは
とても優美で細やかな表現がなされているのですが、
この少年のようにリアリティを持った存在ではありません。
まさに生身の人間として描かれた少年の姿に釘付けになってしまいました。
 
 


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