この作品は「シャロットの女」を描いた作品としては早い作例となっています。 エリザベス・シダル(以下リジー)は、シャロットの女が窓の外を見た瞬間を絵画化しています。
この場面は後にウィリアム・ホルマン・ハントやウォーターハウスも描いています。
リジーのこの作品は動きが少なく、ぎこちなさもありますが、
派手な動きの無い分、余計にほんの一瞬で呪いがかかってしまった様子が伝わってくるようです。 ヴィクトリア時代の女性は、女だということだけで大きく束縛されていました。
女性は「家庭の天使」であり、良き娘、良き妻、良き母であることを求められました。
そして「堕天使」となってしまった女性は、社会的に葬られることとなりました。
すなわち自由に外の世界を見ることが許されず、
自分の意思で外の世界を見てしまったために死ぬ運命となった「シャロットの女」は
ヴィクトリア時代の女性の置かれていた状況を象徴する存在といえます。 帽子店で働いていたリジーは画家ウォルター・デヴァレルによって見出され、
ラファエル前派の画家たちのお気に入りのモデルとなります。
やがてロセッティと親密な関係となりますが、
ロセッティはリジーに絵を描くことをすすめます。
やがて彼女は絵の才能を開花させていきますが、
それは愛する人と精神的な絆で結ばれることを望んだ
リジーにとって愛情表現の一つでもあったようです。
 
彼女の絵は評論家ラスキンにも高く評価され、
1857年にアメリカを巡回する英国絵画展の出展作品のなかにも
一点彼女の作品が含まれていました。
 
しかし絵画のモデルや画家というのは19世紀の女性の生き方としては
大きく「規範」を外れるものでした。
画才を生きるよりどころに求めようとしても
彼女の前には夫であり師であるロセッティが大きく立ちはだかっていました。
やがて彼女は精神的に不安定な状態に陥り、悲劇的な死を迎えます。
 
機を織る手を止めて一瞬外の世界を見てしまった、リジーの描くシャロットの女は
リジー自身の姿のようにも思えます。
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