幼子イエスを抱いてロバに乗る聖母マリアと 傍らに寄り添うヨセフを描いた「エジプトへの逃避」という主題は 中世以来数多くの画家が描いてきたものです。 上の作品は19世紀英国の画家エドウィン・ロングのもので、 エジプトへ到着した聖家族の姿は伝統にのっとった表現がなされています。 これまでの作品と大きく異なるのは周りの人物や背景です。 19世紀以前の作品では聖家族が旅していたのは ヨーロッパの森や荒野でしたが、 ロングの作品では聖家族の旅先は紀元前後のエジプトです。 イエス誕生当時エジプトはローマの属領となって30年ほど経過していました。 しかしこの作品に描かれたエジプトの人々は 王朝時代と全く変わらない生活を営んでいるようです。 実際ローマ属領となってからも 従来のエジプトの宗教や文化は長らくそのまま保持されました。 ロバに乗る若い母親が抱く幼子は 後に世界の歴史を大きく動かすこととなるのですが、 ここに集う人々は誰もそのことには気づいていないようです。 |