りんごの花 ―春
 
 
 


ジョン・エヴァレット・ミレー りんごの花
1856−58 110.5×172.7cm
レディ・リーヴァー美術館


2007年3月にMy Sweet Roseのトップページに掲げていた作品です。
春らしい作品をと思い選びました。
果樹園でのピクニック風景が描かれていますが、
ミレーはこの作品をアトリエではなく、戸外で制作しました。
当時のアカデミーでは風景画であっても制作はアトリエで行うのが普通であったため、
戸外での制作というのは画期的なことだったのです。

最初『りんごの花』には処女とロマンスの季節を意味する『春』という題名がつけられており、
人間の死をめぐる瞑想を表すともいわれる『落ち葉』と対になる作品として描かれたといわれます。
画面手前に描かれた8人の娘たちは「花」に見立てられています。

美しく花をつけたりんごの木の下で
娘たちは思い思いにくつろいでいます。
一見穏やかな春の一日を描いたように見える作品ですが、
単なる日常生活を描いた作品ではないようです。

右端に見える「時」の持物である大鎌や、
その手前には摘み取られた花が籠に入れられていることは
「花」の命の儚さと、
「花」はいつしか摘み取られる運命にあるということを示していると思われます。

 いのち短し 恋せよ少女(おとめ)
 朱き(あかき)唇 褪せぬ間に
 熱き血潮の 冷えぬ間に
 明日の月日の ないものを
吉井勇「ゴンドラの唄」より

「春」はつかの間に過ぎてゆくからこそ
美しく輝くのだということを感じさせられます。