海洋王国の栄光
 
 
 


ヌーノ・ゴンサルヴェス サン・ヴィセンテ・デ・フォーラの多翼祭壇画

この作品は1882年にリスボンの修道院で発見され
現在はリスボン国立古美術館の至宝となっています。

ゴンサルヴェスはポルトガル国王の宮廷画家として活躍し
コロンブスがアメリカ大陸に到達した1492年に没したと伝えられています。
この作品に見られるように
北方絵画の影響を受けた鮮やかな色彩と細密描写が、彼の特色です。

中央にいるのがポルトガルおよび航海の守護聖人
聖ウィンケンティウス(サン・ヴィセンテ)です。
聖ヴィセンテの右にいる合掌する黒衣の男性は
航海王子の名で知られるエンリケ王子です。
彼は生涯独身を通し常に僧衣である黒い衣裳を身につけていたといわれています。
聖人にひざまずくのはゴンサルヴェスが仕えた国王アフォンソ5世です。
後ろに控えるのは漁夫や水夫といった市井の人々です。

ポルトガルは背後に大国スペインが控え目の前は大西洋という地勢であり、
国の命運を切り開くためにも海に漕ぎ出し、
貿易と植民地政策に力を入れるより他ありませんでした。
ヴァスコ・ダ・ガマのインド航路発見や
マゼランによる初の世界周航などによって
14〜16世紀のポルトガルは海洋王国として未曾有の繁栄を極めました。
しかし16世紀末王家の断絶により、スペインの支配下に入ると
次第に国力は衰退していきました。

この作品で印象に残るのは
聖人や英雄とともに漁夫や水夫たちが描かれているということです。
ゴンサルヴェスは実際の航海は彼らの力なくしては成立しないことを
十分に承知していたのだと思います。
海洋王国の栄光を支えていたのは
名も無き庶民たちだったことを伝えてくれる作品です。