私がトマス・クーパー・ゴッチの作品を初めて見たのは1998年に神戸の大丸ミュージアムで開催された「英国ロマン派展」でです。 「死の花嫁」の黒いヴェールをかぶり、紅い雛罌粟の咲く中に微笑みながらたたずむ女性の姿が強く印象に残りました。 罌粟は「眠り」「死」を象徴する花として描かれます。 もちろん雛罌粟には毒は含まれていませんが、この場合罌粟と雛罌粟が同一視されているようです。 黒い衣服は喪服を表します。 この作品はフランス象徴主義の影響を色濃く受けた作品です。 ゴッチは最初は写実主義的絵画を描いていましたが フィレンツェでイタリア・ルネサンス絵画の図像体系と様式とを学んだことによって 象徴的な人物主題を描くようになりました。 子供や青年を聖画像のように描いた独自のスタイルを確立することとなります。 このような作品の例に「聖なる母」(1902)や、「玉座の子供」(1894)があります。 緻密な写実描写で描かれた「玉座の子供」をモノクロの図版でみたとき、これは写真ではないのかと思いました。 そのときからゴッチという画家の存在は気になってはいたのですが、 なかなか実際の作品を見る機会には恵まれませんでした。 「英国ロマン派展」には3点のゴッチ作品が出品されていて、 そのうちの1点が「死の花嫁」でした。 もう1点「旗」という作品が展示されていて、頭上に円光をつけた少女の描かれた作品でした。 これらゴッチの作品は特定の物語を主題としたものではなく、「死」や「無垢」といった概念を絵画として表したものです。 |