クリスマス・キャロル
 
 
 

ヴィクトリア朝の人々は家族や友人が集うクリスマスに 人々との間に確乎とした絆のあった中世の生活を連想したそうです。
ロセッティの作品でも中世とクリスマスが結び付けられています。

中世風の赤いドレスをまとった貴婦人が二人の侍女に髪を梳かれながら、
クラヴィコードという中世の鍵盤楽器を奏でています。
背後の棚にある王冠から彼女が高貴な身分の女性であることがわかります。
クラヴィコードの装飾画に「受胎告知」と「キリストの降誕」が描かれています。
画面の左右にある植物はクリスマスには欠かせない柊です。

私がこの作品を見ていて気づいたのは、
貴婦人の赤のドレスと侍女の緑のドレスがいわゆる「クリスマスカラー」だということです。
2002年に国立西洋美術館で開催された「ウィンスロップ・コレクション」展にも
この作品は出展されていましたが、
色彩の美しさが印象に残っている作品です。

貴婦人のモデルはロセッティの妻となるエリザベス・シダルです。
彼女はこの頃多くのロセッティの作品でモデルを務めています。
後年のジェインやファニーをモデルとした華やかな作品よりも
この頃のリジー(エリザベス・シダル)をモデルにした素朴な作品のほうが
どことなく味わい深いように思えます。

この頃(1857年頃)のロセッティは「青い小部屋」「七つの塔の調べ」といった
中世の女性が音楽を奏でる姿を幾度も描いています。
これは絵画の中に音楽的(詩的)な要素を盛り込むことで、
最高の芸術を生み出そうとしたものです。

19世紀英国の評論家ウォルター・ペイターは「すべての芸術は絶えず音楽の状態に憧れる」と述べ、
ドイツの哲学者ショーペンハウエルは音楽を「最も純粋な芸術」と呼び、
フランスの詩人ヴェルレーヌは自作の詩の冒頭に「何よりもまず音楽を」との一句を掲げました。
このように19世紀において「音楽」は最も純粋な形の芸術であると考えられ、
絵画の世界にまでその影響は及んだのです。