絵画作品解説


結婚の祝宴でダンテに会釈を拒むベアトリーチェ

この画題は「新生」第十二章 ベアトリーチェがダンテに会釈を拒む場面と
「新生」第十四章 結婚の宴でベアトリーチェを見て動揺するダンテを
彼女が嘲笑する場面からとられています。

「新生」にはダンテがベアトリーチェの会釈によって愛を感じ始め、
彼女の死とともにその愛が浄化されていく次第が語られています。

ロセッティは結婚の宴でベアトリーチェから会釈を拒まれるダンテを通して
結婚という地上における愛を否定し、天上で魂の交歓によって成就する愛の理想を描こうとしました。



ダンテの愛

対角線の左上には太陽になぞらえられた至高の神が描かれ、
右下には煌く星々と三日月とともにベアトリーチェが描かれています。

その太陽(神・男)と月(ベアトリーチェ・女)を結びつけるのが中央に描かれた「愛(アモール)」です。
「愛」は「日もすべての星も支配」(「神曲」天堂篇)して地球と思われる球の上に立っています。
そして左手に弓と矢を持ち、右手にはベアトリーチェの死んだ時刻を示す日時計を抱えています。

このことから「ダンテの愛」はベアトリーチェの死を象徴的に表現した作品と考えられています。



ダンテの夢

この作品に描かれているのはダンテが夢の中で見たベアトリーチェの死の場面(「新生」第二十三章)です。

ロセッティは
「これは罌粟の花が散乱している夢の部屋である。そこにはベアトリーチェがまるでたった今
死の世界に退いていったかのようにベッドの上に横たわっている。
赤い衣を着けた有翼の愛(アモール)が
ダンテの手を引いて導いていく。
ベッドに近づくと愛はベアトリーチェの上にかがみこみ、
彼女にダンテが一度もなしえなかった接吻をする。」と語っています。

画面の左右に見える階段はこの「夢の部屋」が天上と地上とを繋ぐ中間に位置することを示しています。