旧約聖書「雅歌」はヘブライ語では「歌の中の歌」と呼ばれます。 それらの「歌」は花嫁の恋人への愛を謳いあげた相聞歌で、 大らか、かつ大胆に恋愛を歌ったものもあります。 後にこれらの歌の「花嫁」や「恋人」は 教会や聖母マリアを象徴するものと考えられるようになりました。 モローの『雅歌』は 愛しい人を求めて町をさまよう乙女の姿を描いたものです。 この作品は私が初めて実物を見たモロー作品ですが、 水彩で繊細に描き出された黄昏の情景や オリエンタルな美を醸し出す女性像に一目で心惹かれました。 バーン=ジョーンズの『レバノンの花嫁』は 1870年代に刺繍のデザインとして取り上げた主題を改めて水彩したものです。 百合の花咲く小川のほとりを風の精に誘われて歩く花嫁の姿です。 青い衣裳が「北風」明るい衣裳が「南風」でしょうか? この風の精の姿や作品全体の流麗な線描はボッティチェリの影響によるものです。 後に「レバノンの花嫁」の詩句「閉ざされた園」「封じられた泉」は 聖母マリアの処女性を象徴するものとされました。 ![]() ロセッティ 最愛の人 1865-66 82.6×76.2cm テイト・ギャラリー この作品は初め『ベアトリーチェ』として描き始められましたが、 中央の女性のモデルの顔の色艶があまりに健康的で美しかったため 雅歌の花嫁に主題変更されたものです。 中央の花嫁の輝くような肌色をはじめ、 五人の女性たちの微妙な肌色の違いが巧みに表現されています。 「雅歌」の謳いあげる豊饒なる愛の世界は 峻厳なイメージの強い「聖書」の持つ別の側面を感じさせてくれます。 |