プシュケとアモール


バーン=ジョーンズ プシュケの婚礼
1894-95 122×213.4cm ベルギー王立美術館

花嫁の行く道に四人の乙女たちが薔薇の花を撒き、
花嫁の後ろには楽を奏でる乙女たちがつき従っています。
絵画作品としては大変美しいものですが、
全体に寒色でまとめられた色彩と人々の重苦しい表情、
そして行列を先導する松明を持つ女が
この光景を「花嫁行列」ではなく「葬列」のように見せています。

恋心を起こさせる黄金の矢で自身を傷つけてしまったエロス(クピド、アモール)は
目前にいたプシュケに恋してしまいますが、
彼はそれを恥じ身を隠してしまいます。
それでも恋心を抑えきれないエロスは魔神に化けてプシュケの両親の前に現れ
彼女を生贄に捧げるよう求めます。

この物語から、『プシュケの婚礼』は「婚礼」というよりも
生贄を捧げるための「儀式」といったほうがふさわしいかもしれません。

崖の上に置き去りにされたプシュケは
ゼフュロス(西風)によってエロスの宮殿へ連れて行かれ、
プシュケは宮殿で暮らすようになりますが、
夫であるエロスは正体を隠すため彼女とは暗闇でしか会いませんでした。
姉たちに唆されたプシュケはエロスの眠る姿を見てしまいます。
禁を破ったプシュケにエロスは怒り、
彼女の元から去ってしまい、宮殿も消えうせてしまいます。

エロスを愛しているプシュケは再びエロスに会うため
彼の母アフロディテのもとへ行きます。
そこで数々の試練を経てようやくエロスと再会し、
彼女は神々の一員に加えられ二人は結ばれます。

 
  (左)フランソワ・ジェラール プシュケとアモール
(右)ブーグロー プシュケとアモール


「プシュケ」とはギリシア語で「心」「魂」を意味しています。
ジェラールの作品でプシュケの頭上に蝶が舞い、
ブーグローの作品でプシュケの背中に蝶の羽がついているのは
蝶が魂の象徴であるからです。

この物語は「愛」(エロス:アモール)が「魂」(プシュケ)を求める寓話です。
二人の間に生まれた子供は「喜び」と名づけられます。
「心」の伴う「愛」こそが真実の愛であり、
そこに「喜び」が生まれることを意味しているのでしょう。