ボッティチェリ
ヴィーナスとマルス
1484頃 69×173.5cm
ロンドン ナショナル・ギャラリー
 
 
 
火星は地球のすぐ外側を公転している惑星で、687日間で太陽の周りを一周します。
自転周期は24.6時間と地球とほぼ同じです。
地球よりも質量は小さく約十分の一しかありません。
そのため重力も弱く地球の約40%です。

火星の地形は地球とは桁違いにスケールが大きく、
太陽系で最も高い山、オリンポス山(標高26km)があり、
また太陽系最大の峡谷、マリネリス峡谷は全長4000km、深さ7kmに及びます。

そして火星といえば「火星人」ですが、
火星人の存在が議論されるようになったのは、
19世紀後半火星の表面に線状の模様が発見され、
「それは運河である」という説が唱えられたためです。
20世紀後半になって観測技術の進歩や火星探査機による直接観測で、
それらの線状模様は人工的なものでないことがわかりました。
線状模様の一部は太古に水の流れた跡であることがわかっています。

火星は地球以外の太陽系の天体の中では、生命の生存に比較的適した状態であるため、
将来人類が火星に移住の可能性も無いとはいえません。
未だ人類は他の惑星へは行っていませんが、
最初に行く他の惑星は火星である確立が非常に高いといえます。

火星にはフォボス、ダイモスの二つの衛星があります。
これらの衛星は地球の月と異なり非常に小さく、
また形も球状ではなく岩の塊のような天体です。

火星の外見で一番目に付くのが、その赤い色ですが、
これは地表に酸化鉄(赤錆)が多量に含まれているためです。
この血や炎のように赤い色から、メソポタミアで戦の神ネルガルの名がつけられて以来、
ギリシアでアレス、ローマではマルスと、火星は軍神の名で呼ばれるようになりました。
惑星記号は♂のマークで、軍神の持つ槍と楯を記号化しています。
ちなみに二つの衛星の名前はマルスの息子の名前より取られました。

軍神マルスは甲冑を身に着けた勇ましい姿で表されることが多いのですが、
凶暴で思慮に欠ける性格から、他の神々からの評判は芳しくありません。
ただヴィーナスだけがそんな彼に心を寄せていました。
マルスは古来農耕神でもあり、その祭りは三月に行われました。
そのため英語のMarchをはじめ、
ヨーロッパの言語で「三月」はマルスに由来する名称になっています。


画像はボッティチェリ「ヴィーナスとマルス」です。
この主題には「愛」が「闘争」を征服するという
ルネサンス期の寓意が含まれています。
マルスはすでに武装解除され、眠る美しい若者として描かれています。