ピエタ

モロー 1856 75.5×97cm
岐阜県美術館

今 わが悲しみはきわまり、比類なく
わたしをみだす。わたしはじっと見る、石の内部の
凝固するのを。
きびしいわたしゆえ まだ一つのことを知っている、
おまえが大きくなったことを―
……大きくなったことを。
あまりにも大きな悲しみとなって
わたしの心の枠を すっかり
のり越えてしまったことを。
今 おまえはわたしの胎内(おなか)をつきぬけて坐っている。
今となっては もう わたしはおまえを
生むことはできません。
リルケ「ピエタ」




ピエタ

モロー 1867
フランクフルト シュテーデル美術館
 




ピエタ

モロー 1876頃 23×16cm
国立西洋美術館

そのとき二人の感じたことは
すべての神秘を打ちこえた 甘やかな
相変わらず現世的なものではなかったのか。
彼が墓の中からやや蒼ざめて
軽々と彼女のところへ歩いていったとき、
全身がすっかり復活してしまって。
ああ、誰よりも彼女のところへ。比類なく
二人は快癒していた。
そうだ、恢復していたのだ。二人は
つよく触れ合う必要はなかった。
彼は、一瞬、
その母なる肩へ
今ようやく永遠になったばかりの手をおいた。
そして 二人は
春の樹のように 静かに、
同時に 無限に、
彼らのきわなりない交わりの
季節を始めたのである。
リルケ「復活したキリストを抱くマリアの安らぎ」




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