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鏡と綴織―シャロットの女
 
 
 

「シャロットの女」とは、英国の詩人アルフレッド・テニスンが1833年に発表した詩
“The Lady of Shalott”の主人公です。

塔に住まうシャロットの女はある呪いによって直接外を見ることが許されず、
鏡に映る外の光景を綴れ織として織り続けています。
しかし、彼女は次第に影だけの世界に飽きてしまい、
騎士ランスロットが通りかかったときに、とうとう直接外を見てしまいます。
そのため呪いがかかり、後は死を迎えるばかりとなります。
塔から出た彼女は小舟に乗ってランスロットのいるキャメロットを目指しますが、
舟の上で歌いながら最期を迎えます。

この物語は報われぬ愛の物語です。
ランスロットは彼女が自分を慕っていたことすら知らず、
キャメロットに流れ着いた彼女に対して哀れみの一瞥を投げるのみでした。

シャロットの女には名前もついておらず、
(シャロットというのは彼女の住む城のあった場所です。)
彼女がなぜ呪われているのかは、詩の中では明らかにされていません。
それゆえに多くの画家にインスピレーションを与えたようです。

ウォーターハウスはこの主題で3点の作品を制作しています。
1888年版「シャロットの女」では
日の暮れがた、女は小舟に「魔法の織物」をしき、
舳先に“THE LADIE OF SHAROTT”と記して、舫を解いて死出の旅につく姿が描かれています。

この作品でウォーターハウスは詩の内容をかなり忠実に描いていますが、
同時に彼独自の想像力によって解釈しなおされた部分もあります。
彼女は白い衣裳を身につけていますが、これは彼女の純潔を象徴するもので、
また花嫁衣裳であると同時に死に装束でもあります。
船首に置かれたキリストの磔刑像と3本のろうそくは彼女の受難を示しています。
これらのことは、この船出が彼女の弔いの旅になることを象徴しています。
 
1894年版の「シャロットの女」では、彼女に呪いがかかった瞬間が描かれています。
背後の鏡にはひびが入り、織物の経糸横糸が彼女の足に巻きついています。
これらの糸は女性を縛る様々な因習を象徴するものとも考えられています。
この作品のシャロットの女は毅然とした表情で自分の宿命に立ち向かおうとしているようです。

1915年の「影の世界にはもううんざり、とシャロットの女は言う」は
呪いのかかる前、来る日も来る日も機を織り続けていた彼女が
鏡に映る恋人たちの姿を見て「影の世界にはもううんざり、」とつぶやく場面です。

この「鏡」を通してしか外の世界を見られず、
ひたすら城の中の一室で「機織」をするシャロットの女の姿には
19世紀の女性の姿を見ることができるような気がします。
女性が自分の目で外の世界を見、
自分の足で外の世界へ踏み出すことがタブー視されていた時代の姿です。

しかし彼女は呪いがかかっても、黙って死を待つのではなく、
愛する人のいるところへ旅立ってゆくのです。
結局は彼女の愛は伝わることはなかったのですが、
最後まで宿命に屈することのなかったシャロットの女の姿がうかがえます。