フィレンツェ・ルネサンス―芸術と修復 展

1991年7月16日〜9月1日 京都国立近代美術館

 

 
この展覧会は表題からもわかるように、美術品の「修復」という点に着目した展覧会でした。

イタリアにおいて「修復」とは、技術と科学の内容を多く含む活動であって、

外国におけるイタリアの積極的なイメージを形成するのに貢献する活動のひとつと考えられています。

 

 
展示構成は大きく分けて
絵画・フレスコ・彫刻・工芸とデッサンの二つになっていました。


絵画・フレスコ・彫刻・工芸では12世紀から17世紀にいたる様々な作品が出品されており、

中でもフレスコ画は壁からはがした状態での展示であるため、

フレスコ画の制作および修復の過程がわかりやすくなっていました。

「修復」に重点を置いた展覧会のため、多くの作品の修復前の様子や、修復過程の写真も数多く展示されていました。

 

 
主な作品

ロレンツォ・ギベルティ ヨセフの物語 フィレンツェ 大聖堂美術館

このブロンズ製パネルはフィレンツェ サン・ジョヴァンニ洗礼堂の東側の門扉を構成する10枚のパネルのうちの一枚です。

この門扉はミケランジェロが「天国の門」と呼んだことで、広くこの名で知られています。

1401年ギベルティは、サン・ジョヴァンニ洗礼堂門扉のコンクールでブルネレスキと最後まで競って勝利を得、

今日洗礼堂北側を飾るキリスト伝を主題としたブロンズ門扉を制作しました。(1403−24)

「天国の門」は北側の門扉が設置された後、1425年から1452年にかけて制作されたもので、

旧約聖書の物語を題材にしています。

「ヨセフの物語」は兄弟たちによってエジプトに売られたヨセフの物語を一つのパネルの中で表現しています。

物語は投げ込まれた穴から救われる上の場面から始まって、

エジプトでの兄弟たちとの再会の場面を表す左の場面で終わります。

現在「天国の門」は大聖堂美術館に移され展示されています。


サンドロ・ボッティチェリ 若い女性の肖像(美しきシモネッタ) フィレンツェ パラティーナ(ピッティ)美術館

この作品のモデルに関しては確証はありませんが、伝統的にシモネッタ・ヴェスプッチであるとされています。

シモネッタの肖像とされている他の作品と比較すると、質素な身なりで描かれていますが、横顔の美しさが強く印象に残ります。


サンドロ・ボッティチェリ 書斎の聖アウグスティヌス フィレンツェ オニサンティ聖堂

ボッティチェリの墓もあるオニサンティ聖堂の内陣仕切りに描かれたフレスコ画です。

現在は内陣仕切りは取り外され、壁とともに移動されています。

この作品はヴェスプッチ家の注文によって制作された作品で、画面上部にヴェスプッチ家の紋章が描かれています。

聖人の頭上にはユークリッドの幾何学書や機械時計が置かれ、

アウグスティヌスは渾天儀(こんてんぎ:天体の位置や運行を観測する機械)を見つめながら瞑想しています。

これら描き出された文物はヴェスプッチ家の科学技術に対する関心の深さを示しています。


ドメニコ・ギルランダイオ 書斎の聖ヒエロニムス フィレンツェ オニサンティ聖堂

オニサンティ聖堂の内陣仕切りに描かれたフレスコ画で、ボッティチェリの「聖アウグスティヌス」と対になる作品です。

ギルランダイオはフレスコ画を得意とし、細部の描写に優れた才能を発揮しました。

この作品に見られる細密描写や鮮やかな色彩は、当時メディチ家のコレクションにあった

ヤン・ファン・アイクの「書斎の聖ヒエロニムス」(デトロイト美術館)の影響を受けていると考えられています。

机にはオリエントのタペストリーがかけられ、書見台のそばには眼鏡、鋏、インク壷、定規などが置かれています。

ヒエロニムスは書き物をしながら瞑想しています。


ロレンツォ・ディ・クレディ ヴィーナス フィレンツェ ウフィツィ美術館

「ヴィーナス」は1869年メディチ家の別荘の物置から発見され、ウフィツィ美術館に収蔵されました。

この作品はベルリンにあるボッティチェリ ヴィーナスとの類似を指摘されています。

確かに暗い背景に浮かび上がる裸婦像という点では共通しています。

しかしボッティチェリのヴィーナスが天上的で超自然的であるのに対し、

クレディのヴィーナスは古代風のポーズをとった現実の女性といった印象を受けます。

彼はモデルに忠実に、欠点を隠すことなく人物を描こうとしました。

こういった姿勢は北方の画家の表現に影響を受けたものと考えられています。