1    夕べと苦しみ
更新日時:
2005/04/29
“苦しみ”は“夕べ”に言う、「ああ、あなたを呼んでいたの、
ただの一度も私を傷つけたことがないのはあなただけね?」
青ざめた顔で微笑む“夕べ”は彼女のほうへ
西の空の階段を下りてゆく。
 
“夕べ”は“苦しみ”にささやく、「いとしいお前・・・・・・」
彼は彼女の両手をとり、坐らせる、
彼女の心は“夕べ”の穏やかな愛撫に
どれほど慰められることだろう!
 
“夕べ”は言う、「いとしいお前、世界が死ぬのを聞いてごらん、
非情な人間たちの声は途絶えているだろう、
そしてお前の悲しく多産な妹、“夜”が近づいてくるよ、
この世には咲かない百合を腕いっぱいに抱えた妹が・・・・・・」
 
“苦しみ”は美しい“夕べ”に答える、「暗闇が怖いの、
人間も怖いし、つきまとう幽霊みたいな昼も、
あの暗い空にたくさん散りばめたまなざしが怖い、
あなたの気だるい優しさが好き」
 
だが“夕べ”はもうこの嘆きに耳を貸さず、立ち上がる、
愛する女を抱く望みはかなえられないまま、
すでに彼の姿は遠く薄れている、夢のように、
そして“苦しみ”はひとりこの地上に残される。
ポール・ブールジェ「夕べと苦しみ」
 
 
モロー 夕べと苦しみ
1882頃 38×20cm エフリュシ・ド・ロチルド財団



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