エウロペ
 
 
 


モロー エウロペ


フェニキアの王の娘エウロペを見初めたゼウスは
白く美しい牡牛の姿になって海辺で侍女と戯れるエウロペに近づきました。
最初牡牛を恐れていたエウロペも牛のおとなしげな様子を見てすっかり心を許し、
牛の角に花輪を飾ったりして、ついにはその背中に乗ってしまいます。
牡牛は彼女を乗せたまま海を渡りクレタ島まで連れ去りました。
上陸後ゼウスは正体を現します。
エウロペはゼウスの三人の息子を生み、
彼女の名はヨーロッパ大陸の由来となります。
星座のおうし座はこの時ゼウスが変身した牡牛を象ったものです。


「エウロペの略奪」を描いた作品としてまず思い浮かぶのが
ティツィアーノのこの作品です。
躍動感溢れる描写からは突然連れ去られるエウロペの驚愕が伝わってくるようです。
天上を舞うアモール(エロス)はこの作品が愛を主題としていることを表しています。


グイド・レーニらしく優美な筆致のエウロペです。
牡牛に身を預け天を仰ぐ彼女の表情は
同じくレーニが描いたマグダラのマリアを思わせます。


レンブラント初期の作品に描かれた情景は
牛に乗るエウロペの様子や侍女の驚きの仕草など
書割のような風景もあいまって
まるで舞台劇の一場面を見ているような感じがします。


ブーシェの作品では愛らしい女性たちが牛と戯れる牧歌的な場面が描かれ、
このあとの緊迫した展開は全く予想が出来ません。


モローのこの作品では牡牛はすでに大神としての姿を現し始めています。
エウロペはそのことに対して恐れを抱く様子もなく、
むしろ愛しげな表情でゼウスと見つめあっています。
この牡牛の表現はアッシリアの人面牡牛像の影響を受けたものといわれ、
モローの東方への関心を示しています。

地中海東岸地域はヨーロッパに文明が興る以前から栄えていました。
エウロペはフェニキアの王女とされていますが、
フェニキア人は交易のため盛んに航海を行い、各地に植民地を築きました。
またフェニキア文字はギリシアやローマの文字の起源となりました。
そしてクレタ島はヨーロッパ最古の文明が栄えた地とされ、
牛は聖獣として崇められていました。
牡牛の背に乗って東方からやってきたエウロペの物語は
ヨーロッパ文明の原点を示すものなのではないかと思います。