三人の花嫁
 
 
 


ヤン・トーロップ 三人の花嫁
1893 78×98cm クレラー=ミュラー美術館


世紀末象徴主義芸術のなかでもトーロップの個性は特に際立っています。
彼は当時オランダ領であったジャワで生まれ、
14歳でオランダに帰国するまでかの地で育ちました。
彼独特の作品様式は幼年期を過ごしたジャワの伝統や思い出によるもので、
ジャワの版画やワヤン劇の操り人形などの影響も受けて形成されたものです。

『三人の花嫁』は1894年に開催された「自由美学」展に出品されたもので、
この展覧会に出品された作品の中でも最も重要な作品の一つという高い評価を得ました。

三人の花嫁を取り囲む女たちはシルフィード(空気の精)です。
この流れるようなシルフィードの造形にもジャワ文化の影響が見られます。
こういったシルフィードはトーロップの他の作品にも数多く登場しています。

左側の尼僧のような衣裳を身につけているのは
「神」に嫁ぐ「天国の花嫁」です。
彼女は清純な乙女であり、「花嫁」となることに不安を覚えています。
奥では彼女の仲間?である尼僧たちが「花嫁」の身を案じているようです。
シルフィードは「花嫁」に百合の花を捧げ祝意を表しています。

中央の透けるベールを被っているのは
「人間」に嫁ぐ「地上」の花嫁です。
彼女の穏やかな表情は「花嫁」の純潔と彼女に希求される母性を
ベールの下に透けて見える美しい裸身は、地上的な女性美を象徴しています。
永遠の女性としての「花嫁」に、シルフィードは白薔薇を捧げ賛美しています。

右側の険しい表情をしているのは
「悪魔」に嫁ぐ「地獄の花嫁」です。
蛇と髑髏を身につけた「花嫁」は冷酷で官能的な「ファム・ファタル」です。
シルフィードは彼女を引き止めようとしていますが、
悪魔へ嫁ぐ「花嫁」の決心は覆らないようで、真正面を見据えて佇んでいます。

シルフィードは婚礼の鐘を鳴らしていますが、
その鐘は十字架につけられたキリストの手に繋がっており、
また彼女らの足元は一面茨が敷き詰められています。
これは魂を気高く保つことでしか希望はないということを表しています。

トーロップは『三人の花嫁』は「精神的なる宇宙と官能的なものの結婚による美の誕生」を象徴していると述べています。
純真さと官能性を併せ持った「地上の花嫁」こそが
彼にとっての「理想の美」の姿であったのかもしれません。