『目を閉じて』は、私の最も好きなルドン作品です。 この作品はそれまでモノクロームで奇怪な幻想を描き続けていたルドンが 色彩の世界に目覚めるきっかけとなった作品とされています。 この作品が製作される前年ルドンには次男が誕生しました。 長男を生後まもなく亡くした彼にとって、 次男の健やかな成長は何事にも代えがたいものでした。 妻子との平穏で幸せな生活の中で、 ルドンは色彩画家としての資質を開花させていきます。 この作品のモデルは彼の妻カミーユとされていますが、 特定の人物を描いた作品というよりも 夢想的な雰囲気そのものを描き出した作品という感じがします。 後の作品のような豊かな色彩はまだ見られませんが、 背景の青の美しさに魅了されます。 ルドンは「目を閉じて」のバリエーションを何点か描いていますが、 他の作品では花などのモティーフが加えられ、 また色彩もより鮮やかになっています。 しかし、人物の頭部のみをクローズアップし、 色彩も青と茶色のみの使用にとどめられたからこそ、 「目を閉じて」は独自の夢幻的美しさを放っているように思えます。 「目を閉じて」いる人物は自己の内面を見つめている姿とされていますが、 私にはモノクロームの夢から目覚める寸前のルドン自身の姿のように思えます。 この作品は1904年に国家買い上げとなりましたが、 ルドンの作品としては初めてのことでした。 そういう意味でも、この作品はルドンにとって重要なものではなかったかと思います。 |