ラファエル前派の女性画家ド・モーガンによる「人魚」は、 アンデルセン「人魚姫」を題材にしています。 一般に伝説や詩に登場する人魚は 美しい歌声と姿で人間を誘い、 海底の世界へ引きずり込んでしまう存在として表されています。 つまり人魚は“宿命の女 famme fatale”なのです。 しかし「人魚姫」の主人公は海の外の世界へ憧れ、 人間の王子に恋をして、人間になることを望みます。 彼女は美しい声と引き換えに人間になりますが、 人間になってもその恋は実りませんでした。 ド・モーガンの作品に描かれているのは、 人魚姫の身を案じて海上に現れた彼女の姉達です。 彼女らは人魚姫が王子を殺せば、もとの人魚に戻れると伝えますが、 人魚姫は愛する王子を殺すことができませんでした。 そして彼女は海の泡となってしまいます。 私はこの物語を改めて見直してみて 「人魚姫」が「シャロットの女」同様 報われぬ恋に殉じた女であることに気づきました。 どちらの主人公も愛のために本来自分のいるべき世界を飛び出し その結果自らは破滅することになります。 しかしたとえ思いを伝えることすらできなかったとしても 彼女らは己の選んだ道を後悔はしていないように思えます。 |