ルネサンス期と近代の「受胎告知図」を見ていて大きな違いに気づきました。 ルネサンスの「受胎告知」の画家といえば、フラ・アンジェリコです。 「天使のような修道士」という名の通り、 篤い信仰心に基づいて描かれた清新な作品は 見る人の心に安らぎを与えてくれるようです。 写本装飾や祭壇画などのきらびやかな作品もまさに天国の様のようで魅力的なのですが、 サン・マルコ修道院の壁画として描かれた2点の「受胎告知」は 最小限の画面構成要素と色彩だけで、神の使者と乙女の対峙を描きっています。 しかし、その「神の使者」は虹色の美しい翼をつけてはいますが、 決して人間から遠く離れた存在ではないように思えます。 バーン・ジョーンズ、ブーグローといった19世紀の画家の「受胎告知」を見ていると、 むしろ近代のほうが天使は超越的存在になっているように思えます。 ルネサンス期の絵画では天使はマリアに対してひざまずく、または対等な位置にいます。 ルネサンスという時代の人間重視の姿勢が見えてくるようです。 それに対して、バーン・ジョーンズの作品では天上から、ブーグローの作品でも雲に乗ってマリアよりも高い位置で神の言葉を伝えています。 19世紀は物質的な機械文明の進展した時代でした。 それゆえ、天使すなわち超自然的存在と人間の距離が隔たってしまったのかもしれません。 近年天使ブームが起こり、天使関連の書籍や天使グッズがよく売れましたが、 物質文明に行き詰まりを感じる現代人が、もう一度「こころ」を取り戻そうとしているのではないでしょうか。 |