19世紀象徴主義絵画において、詩と絵画は密接な関係を持っていますが、 特にモローは数多くの詩人や詩を題材にした作品を描いています。 モローははじめオルフェウス、ヘシオドス、サッフォーといった特定の詩人を題材とした作品を制作していますが、 次第に「詩人」というイメージそのものを描いた作品に移行しています。 そこでは「芸術家」としての詩人だけではなく、「神との仲介者」としての詩人が描かれています。 「詩人とサテュロス」の詩人は頭に光輪をつけていますが、これは「神と人間の仲介者」である聖人の印です。 モローはサッフォーを描いた作品を何点も制作しています。 「サッフォーの死」では崖の下に横たわるサッフォーの姿が黄昏の光景の元に描かれています。 サッフォーの抱える竪琴は彼女が詩人であることを示しています。 モローにとってサッフォーは詩人、すなわち想像力によって神と人とを仲介する巫女のような存在であったようです。 彼女の頭上に白い鳥が舞い降りていますが、私はこれを見て「受胎告知」に登場する聖霊を表す鳩を連想しました。 19世紀後半には水とからんだ死せる女を描いた作品が多く制作されていますが、 この作品もその一つに数えることができます。 |