バレエ作品解説
 


レ・シルフィード

1909年パリ、シャトレ座におけるバレエ・リュスの最初の公演にて初演。

振付はミハイル・フォーキン、音楽はショパンのピアノ曲を管弦楽に編曲。

青年詩人と空気の精(シルフィード)の戯れというロマンティックなモティーフを使い

ショパンの楽曲が醸し出す「ムード」という抽象的な概念を表現しようとした点が

当時のバレエとしては革新的であった。

 

 

クレオパトラ

「ジゼル」の作者であるフランスの詩人・作家テオフィール・ゴーティエの短編小説

「ある夜のクレオパトラ」を原作とする。

クレオパトラに憧れた青年が生死を顧みず、女王に近づき一夜をともにした後で

みずから毒杯をあおいで死ぬという物語である。

1908年ロシア、マリーインスキイ劇場で「エジプトの夜」という題名で初演された。

1909年バレエ・リュスの第一回公演で上演時の舞台背景・衣裳デザインは
レオン・バクストによる。

イーダ・ルビンシュテーイン扮するクレオパトラは観客を大いに魅了した。

「クレオパトラ」は現在では再演されることのない作品である。

 

 
シェエラザード

1910年パリ、オペラ座にて初演。振付はミハイル・フォーキン。

この作品はバレエ・リュスにとって最初のオリジナル作品である。

バレエの物語は「千夜一夜物語」の冒頭の話から取られている。

舞台はアラビアのハーレム、サルタン(太守)の留守に妃ゾベイダは

金の衣裳をまとった奴隷と官能をむさぼる。

饗宴のさなかに突然サルタンが帰還、妃の裏切りを知ったサルタンは

そこにいた奴隷、女官たち全員を殺し、ゾベイダも自害する。という物語である。

エキゾティシズム、エロティシズム、デカダンスを前面に押し出した作品で

初演ではルビンシュテーインがゾベイダ、ニジンスキーが金の奴隷を演じた。

 

 
カルナヴァル

1910年ペテルブルクの慈善公演にて初演。振付はミハイル・フォーキン。

バレエ・リュスは1910年にベルリンで、1911年にパリで上演し好評を博す。

シューマンのピアノ曲集「謝肉祭」に基づいて振付けられたもので、

作曲家自身の分身である主人公と恋人のほか

ピエロ、アルルカン、コロンビーヌなどコメディア・デラルテの登場人物が現れる。

 

 
火の鳥

1910年パリ、オペラ座にて初演。振付:フォーキン、音楽:ストラヴィンスキー

ロシアの民話を題材とした作品で、作曲家ストラヴィンスキーの出世作となった。

火の鳥はバレエ・リュスを代表するバレリーナ、タマーラ・カルサーヴィナが踊った。

 

 
薔薇の精

1911年モンテカルロにて初演。振付:フォーキン、音楽:ウェーバー「舞踏への招待」

「私はきのう、あなたが舞踏会に連れて行ってくれた薔薇の精」というゴーティエの詩をモティーフとする。

初めての舞踏会から帰ってきた少女が腰掛けまどろんでいると、

薔薇の精が現れ、少女とワルツを踊り、やがて窓から飛び出して消えてゆくという物語である。

薔薇の精をニジンスキー、少女をカルサーヴィナが演じた。

薔薇の精は両性具有であり、舞台上の少女だけではなく観客をも幻想の世界へ誘う。

初演時の窓から飛び出すシーンのニジンスキーの跳躍は伝説となっている。

 

 
ペトリューシュカ

1911年パリ、シャトレ座にて初演。振付:フォーキン、音楽:ストラヴィンスキー

1830年代のペテルブルクを舞台とし、見世物小屋の人形劇の人形である

醜いペトリューシュカ、美しいバレリーナ、明るいムーア人が繰り広げる物語である。

バレリーナに恋するペトリューシュカのぎくしゃくとした動きによって、

人の心をもってしまった人形の悲哀が表現される。

ロシア・フォークロアへのノスタルジーとフォーキンの改革的な振付によって成功した作品である。

 

 
牧神の午後

1912年パリ、シャトレ座にて初演。振付:ニジンスキー、音楽:ドビュッシー

物語は真夏の午後、牧神が目を覚ましたところへ7人のニンフたちが通りかかる。

牧神はひとりのニンフに求愛の仕草をし、ニンフは受け入れるかのように見えたが

牧神が抱きしめようとすると怯え去っていく。

牧神はニンフが落としたベールを愛撫し、その上に身を横たえる。

この作品では古代ギリシアやエジプトの絵画のように登場人物は客席に向かって常に横顔で対置する点、

跳躍を一切行わず、天上志向からも逸脱している点など

初演時センセーションを巻き起こした、古典バレエそのものへの挑戦である作品であった。

 

 
青神

1912年初演。脚本:ジャン・コクトー、振付:フォーキン、衣裳・舞台装置:バクスト

数回上演された後、今日に至るまで再演されることのない作品である。

舞台はインド、僧侶として寺院に入ることとなった青年を恋人が引き止めようとして儀式を中断してしまう。

激怒した僧正は娘を獣に食わせようとするが、娘の祈りは神に通じ

青神と女神が現れ、恋人たちを祝福するという物語である。

現在では具体的な振付はわからないが、タイ舞踊の影響を受けた振付であったとされている。